壁側かべぎは)” の例文
うちへ入ると、通し庭の壁側かべぎはに据ゑた小形のへつつひの前に小さくしやがんで、干菜ほしなでも煮るらしく、鍋の下を焚いてゐた母親が
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
いえ、一時わたしを始め、誰もあの壁側かべぎはに積んだ三十ばかりの総桐の箱には眼もやらなかつたのでございます。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
このうるはしかたちをば見返り勝に静緒は壁側かべぎはに寄りて二三段づつ先立ちけるが、彼のうつむきてのぼれるに、くし蒔絵まきゑのいとく見えければ、ふとそれに目を奪はれつつ一段踏みそこねて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
するとその仏蘭西の海軍将校は、まだヴアルスの歩みを続けながら、前後左右に動いてゐるレエスや花の波を縫つて、壁側かべぎはの花瓶の菊の方へ、悠々と彼女を連れて行つた。
舞踏会 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
主婦と其甥に当る十六の少年こどもと、三人の女児をんなのことが、此室に重なり合ふ様になつて寝て居るのだが、渠は慣れて居るから、其等の顔を踏付ける事もなく、壁側かべぎはを伝つて奥のからかみを開けた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)