土気つちけ)” の例文
これは土地が一帯に火山岩の地面で、土気つちけの少いためだらうと思はれた。それでゐて岩にも、樹木の幹にも、みな青やかな苔がむしてゐた。
木枯紀行 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
私の方が呆気あっけられるくらい、真面目まじめな顔付きです。真面目というよりも、土気つちけ色のオドオドした顔といった方がいいのかも知れません。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
そんなに煽切あおりきったのに、職人も蕎麦の行燈あんどんで見た、その近常さんの顔が土気つちけ色だというんですもの。駆寄ろうとする一息さきに、蕎麦屋がうしろから抱留めました。
顔が土気つちけ色になり、ハンカチを出してはしきりに額をぬぐう。倒れるのではないかと思って、キャラコさんは、気が気でなく伸びあがって佐伯氏の顔ばかり見つめていた。
キャラコさん:03 蘆と木笛 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
下顎したあごから、逆さに紙燭の明滅をうけているくぼの多い顔が、土気つちけいろにさっと変った。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
蒼黒あおぐろ土気つちけづいた色を、一心不乱に少女の頭の上にしかけるようにかざして、はらわたしぼるほど恐ろしい声を出す。少女はまたまたたきもせず、この男の方を見つめて、細い咽喉のどを合している。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを済ませて、仰臥ぎょうがしながら、病人はまたこないだの続きを話し出す。話の方によほど気がくのであろう? どうも顔色が悪い、土気つちけ色をして、もうこれは生きてる人間の顔色ではない。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
御顕示はわかったが、夏場になれば、茅葭かやよしのような強い草でさえ立枯れする。天水は三日ごとに四半刻ほどくださるだけ。山焼けはする。灰は降る。岩山ばかりで、土気つちけというものは更々さらさらない。
藤九郎の島 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
百姓や町人の応募兵とみえて、その顔は、みんな土気つちけいろになっていた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして外をのぞくと、お杉は、土気つちけいろに顔を変えた。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、土気つちけいろを帯びた顔して云った。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)