-
トップ
>
-
唇辺
>
-
くちもと
緑雨は恐らく最後のシャレの吐き
栄えをしたのを満足して、眼と
唇辺に会心の“Sneer”を
泛べて苔下にニヤリと
脂下ったろう。
「
些と」と戸口より半身を示して、
黄金の腕環の
気爽に
耀ける手なる絹ハンカチイフに
唇辺を
掩いて束髪の婦人の小腰を
屈むるに会へり。
艶なる
面に得も
謂はれず愛らしき
笑をさへ浮べたり。
が、緑雨のスッキリした骨と皮の
身体つき、ギロリとした眼つき、
絶間ない
唇辺の薄笑い、
惣てが警句に調和していた。
「女が悪いんだ。女の方から
持掛けたんだ、」とU氏は
渋面を作って
苦々しい微笑を
唇辺に寄せつつ
緑雨の眼と
唇辺に泛べる“Sneer”の表情は天下一品であった。