ぼや)” の例文
何処からとも無く蜂のやうにぶつ/\ぼやく声が聞え出した。暫くすると、尻に針を持つたらしい一人の学生が衝立つゝたつて博士を呼んだ。
独帝カイゼルはぶつぶつぼやきながら宮城に引きかへした。そして侍医の鼻先に血だらけな拳骨げんこをぐつと突き出した。侍医は叮嚀に繃帯をした。
で、今度はまた新しい画絹の上に、蝌蚪おたまじやくしのやうなものをきかけたが、「駄目だ、駄目だ。」とぼやいてまた其辺そこらへおつり出した。
「これはいかん、時計が止まつてゐる。」車掌はぼやきながら車中のお客を見まはした。「どなたか時間を教へていたゞけないでせうか。」
と、ぶつ/\ぼやきながら、その男は今度の新建しんだちをも誰ぞ貰つて呉れ手は無からうかと、人の顔さへ見ると無理強むりしひに押しつけてゐるさうだ。
船橋氏は文部省の玄関を出る時、独語ひとりごとのやうにぼやいた。——実際窮屈な世間だ、真実ほんとうの事の言へない世の中に、嘘が吐かれよう筈がない。
しからん、一きれ位僕にも裾分けしたつてよかりさうなもんぢやないか」と近眼ちかめの銀行員がそばにゐる助教授の耳許でぼやいた。
「まあ勿体ない、お手紙をみんなくしちまつたんだつて。」と女中は膃肭臍のやうな細い眼で檀那の後姿を見送りながら惜しさうにぼやいた。
王栄老は郊外電車の不通に出会つた銀行員のやうに、荷物を横抱きにぶつぶつぼやきながら、かはぺりの宿屋に入つた。
キプリングはぶつぶつぼやきながら、隣の主人あるじあてにこれからは少し気をつけてくれるやうに手紙を書いて出した。
岡野氏等は房州のやうな天国に松魚のれない法はない筈だと、ぶつ/\ぼやきながら次の天津あまづをさしてつた。
中橋氏は不足さうに独語ひとりごとを言つた。そして自分が間違つて文部にでも入つたら、乾分こぶんの山岡順太郎氏などは、あの兜虫かぶとむしのやうな顔をしかめて、屹度ぼやき出すに相違ないと思つた。
キリストは腹立まぎれに独語のようにぼやきました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)