古袷ふるあはせ)” の例文
わけても美しいお北が見る影もない古袷ふるあはせに包まれて、人の足音におびえるやうに、部屋の隅に小さくなつて居るのは、平次の眼にも物哀れに映ります。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
又、去年の一夏、健が到頭古袷ふるあはせを着て過した事、それで左程暑くも感じなかつたといふ事なども、かれ自身の口から聞いてゐたが、村の噂はそれだけではなかつた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぬが古袷ふるあはせ一枚ぜに三百文與へて何國いづくへなりと出行いでゆくべしと勘當かんだうなしければ番頭若い者等種々いろ/\詫言わびごとすると雖も吉右衞門承知せず其儘そのまゝ古河へ歸りけり依て吉之助は今更いまさら途方とはうくれ此體このなりにては所詮しよせん初瀬留にもあはれず死ぬより外に詮術せんすべなしと覺悟かくご
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
庭から直ぐ入つて、平次は死骸の枕許に膝行ゐざり寄りました。至つて粗末な布團の上に着換へさせたとは名ばかりの古袷ふるあはせ、手習机の上に線香と水だけ供へてあるのも哀れです。