午餉ひるげ)” の例文
兎まれ角まれ、けふの午餉ひるげにはおん身を市長の家に伴ひ行かでは、我責務の果し難きを奈何せん。われ。今は包み隱さで告ぐべし。
二人は午餉ひるげを食べながら、身の上を打ち明けて、姉妹きょうだいの誓いをした。これは伊勢の小萩こはぎといって、二見が浦から買われて来た女子である。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
たちまち左手ゆんでの畑みちより、夫婦と見ゆる百姓二人話しもてで来たりぬ。午餉ひるげを終えて今しもはたで行くなるべし。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
泰三は午餉ひるげを喰べている。もう時刻が過ぎたので、喰べているのは彼一人。給仕には妹娘の津留が坐っていた。
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さればとて大日向の太陽寺へ廻らん心も起さず、ひた走りに走り下りて大宮に午餉ひるげす。
知々夫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
箱根駅にて午餉ひるげしたたむるに皿の上に尺にも近かるべき魚一尾あり。主人誇りがにこは湖水の産にしてここの名物なりという。名を問えば赤腹となん答えける。面白き秋の名なりけり。
旅の旅の旅 (新字新仮名) / 正岡子規(著)
間もなく質素な午餉ひるげが出て、それが終ると二人は茶室へ席を移した。話はいくたびも時事に触れようとしながら、さりげない方へとそれた。どちらも相手に要求をもっている。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
奴頭は二人の子供を新参小屋に連れて往って、安寿にはおけひさご、厨子王にはかごかまを渡した。どちらにも午餉ひるげを入れる樏子かれいけが添えてある。新参小屋はほかの奴婢ぬひの居所とは別になっているのである。
山椒大夫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それを江戸へ持ってゆく荷物の中へ入れ、おそくなった午餉ひるげを軽くべてから家を出た。
落ち梅記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おたよは答えを濁して、午餉ひるげの支度に立っていった。
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)