刺繍ししう)” の例文
事の起りは、エルアフイ夫人がアムステルダムの良人をつとから託送して来たオランダ土産みやげ刺繍ししうのある布地をジッド夫人に届けた事からである。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
そのなかには、栄子がはじめて良人や子供と捨三を訪問したとき締めてゐた、黒襦子くろじゆすに草花の刺繍ししうのある帯などがあつた。
質物 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
壁には名も知らない人の油繪やら、大きな世界地圖やら、アイノの刺繍ししうやらが掛つてゐる。一隅の三角棚には、土人の古器物こきぶつも二三据ゑてある。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そのあひだ彼女かのぢよは、無産者むさんしや××同盟どうめい支部しぶはたらかたはら、あるデパート專屬せんぞく刺繍ししう工場こうぢやうかよつて生活せいくわつさゝへた。そのうち、三・一五事件じけんとして有名いうめいな、日本にほん×××ゐん全國的ぜんこくてき大檢擧だいけんきよおこなはれた。
彼女こゝに眠る (旧字旧仮名) / 若杉鳥子(著)
話さなくちや、筋の通しやうはないぢやありませんか、——そのちよいと傳法なのが滅法界野暮つ度い、武家風の刺繍ししう澤山なお振袖か何んかよろつて、横つ坐りになつて、繪草紙か何んか讀んでゐるんだから、親分の前だが——
開けてみると刺繍ししうの美事な塩瀬しほぜの半襟が二掛畳みこまれてあつたが、晴代も負けない気になつて、其よりも少し上等な物を木山の其の馴染の女に送り返した。
のらもの (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)