切髪きりがみ)” の例文
ですから茂作が重病になると、稲見には曽祖母そうそぼに当る、その切髪きりがみの隠居の心配と云うものは、一通ひととおりや二通ふたとおりではありません。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その人はよはひ六十路むそぢ余にかたふきて、顔はしわみたれど膚清はだへきよく、切髪きりがみかたちなどなかなかよしありげにて、風俗も見苦からず、ただ異様なるは茶微塵ちやみじん御召縮緬おめしちりめん被風ひふをも着ながら
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
それを前に呼び寄せて話しているのは、七兵衛の手からお松を預かった切髪きりがみ年増としまでありました。
と、型通り、切髪きりがみの老婦人の前に彼女は手をついた。
双面神 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
祖母は切髪きりがみかしらを下げて、熱心にこう祈りました。するとその言葉が終った時、恐る恐る顔をもたげたお栄の眼には、気のせいか麻利耶観音が微笑したように見えたと云うのです。
黒衣聖母 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)