切炉きりろ)” の例文
旧字:切爐
切炉きりろが二つあって、人足たちのいるときには両方へ火を入れるが、いまは一つしか火がなく、どんなに炭をついでも部屋があたたまるということはなかった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そして大きな切炉きりろ膠鍋にかわなべから膠の煮えるにおいとまきのいぶりがむうとするほどな物をたちこめていた。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何日もの如く三歳みつつになる女の児の帯に一条ひとすぢの紐を結び、其一端を自身の足に繋いで、危い処へやらぬ様にし、切炉きりろかたへに寝そべつて居たのが、今時計の音に真昼の夢を覚されたのであらう。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
道具だたみの前の切炉きりろをへだてて、あるじの忠相と蒲生泰軒が対座していた。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
伊兵衛の部屋は、青岳父娘おやこの住居と同じ棟の、道場に近い六じょう二た間であった。片方が寝間で、居間のほうには切炉きりろがあり、机とか手文庫とか、用箪笥だんすなどが備えてある。
雪の上の霜 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
切炉きりろで手がすべって湯釜ゆがまを転覆させたとき、ちょうどあやが火箸を取ろうとしていて、その右手の先へ熱湯がもろにかぶってしまったのだ。叫び声をあげたのは脇にいた母のたえであった。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)