切口上きりこうじょう)” の例文
何処を見ているのか判らないようなはるかな目付をして、切口上きりこうじょうじみた口調で言った。何か無理をしているなとすぐ感じさせる態度であった。
風宴 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
耳を澄ますと、なるほど、いつも変らない切口上きりこうじょうと、きかない気の隠居のしわがれ声が、木枯らしの洩るように響いてくる。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あながかみしもを付けた四角四面の切口上きりこうじょうで応接するというわけではなかったが、態度が何となく余所々々よそよそしくて、自分では打解けてるツモリだったかも知れぬが
美妙斎美妙 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
心のごく低いところの書生を動かすということを力めないで、教師は教師で切口上きりこうじょうで堅苦しいことを言ている。
今世風の教育 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
門野の声ははっきりと、妙に切口上きりこうじょうに、せりふめいて、私の心に食い入る様に響いて来るのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お秀は鋭どい声でこうはなった。しかし彼女の改まった切口上きりこうじょうは外面上何の変化も津田の上に持ち来さなかった。彼はもう彼女の挑戦ちょうせんに応ずる気色けしきを見せなかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
兄は電話での応対なども下手へたでした。電話へ出ると、平常と違った切口上きりこうじょうになるのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
「別段学校へ入りたいということはありません」と、干乾ひからびた切口上きりこうじょうで答えた。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
承ればを二度ほど重ねたことほど切口上きりこうじょうで、弁信の傍へソロソロとやって来て
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
教員たちは数列に並んで鳴りを静めて謹聴きんちょうしている。志多見したみという所の校長は県の教育界でも有名な老教員だが、銀のような白いひげをなでながら、切口上きりこうじょうで、義務とでも思っているような質問をした。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
その晩、御しんさんに呼ばれて「うちは商店ですよ」と切口上きりこうじょうで云われた。それから主人夫妻が支店に居るうちは、俳句雑誌を寝床に持ちこむこともやめ、新聞へ投稿するのもやめた。