刃傷沙汰にんじょうざた)” の例文
さいわいに傷は浅く、十針ほど縫っただけで済んだが、由良の乱暴に手をやいていた人たちが、刃傷沙汰にんじょうざたとして支配役へ訴え出た。
醜聞 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
他人と他人に刃傷沙汰にんじょうざたはねえと見てきたようなことをご披露ひろうしたが、お駒音蔵、音蔵お駒と一本道にふたりのつながりばかりねらうから
二人の風流人は、この美少年の血気と、斬られて倒れている事のていとを見比べると、二人の間に結ばれた刃傷沙汰にんじょうざたであるなとさとりました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
難をいえば、犬千代は感情につよく、同僚などとも刃傷沙汰にんじょうざたを起して、殿の勘気をうけたりしたこともあった。素行そこう放縦ほうじゅうのように思われる。
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
万一それから刃傷沙汰にんじょうざたにでもなった日には、板倉家七千石は、そのまま「お取りつぶし」になってしまう。殷鑑いんかんは遠からず、堀田稲葉ほったいなば喧嘩けんかにあるではないか。
忠義 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
刃傷沙汰にんじょうざたに及ばなくてはならないような事件が起き、そしてその相手が神月伊佐吉ということになれば、聞かなくともおおよそのところは察しられそうだったが、中村が
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その由来を説明すると長くなるが、要するに嘉永二年と三年との二年間に、毎年一度ずつここに刃傷沙汰にんじょうざたがあって、二度ながら其の被害者は片腕を斬り落とされたのである。
半七捕物帳:54 唐人飴 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「つまらない女のことでしてね、つい刃傷沙汰にんじょうざたになってしまったのです」
(新字新仮名) / 島木健作(著)
あれほどの刃傷沙汰にんじょうざたがあったのですから、そこの床にはおびただしい血潮が流れていなければなりません。ところが、見ると、綺麗きれいつやの出た板張りの床には、それらしい跡もないではありませんか。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
たとえば刃傷沙汰にんじょうざたのような事件を起して、自分から新聞種を提供し、蒔岡家にケチを附けるようなことも、しようと思えば出来なくはない、と云うことにあったが、貞之助はそれを一笑に附して
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
もしこれが私でございましたら、刃傷沙汰にんじょうざたにも及んだでございましょうが、甥はただ、道ばたの牛のまりつぶて代りに投げつけただけで、帰って来たと申して居りました。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幹太郎は厨から「わけはよく知らないが、刃傷沙汰にんじょうざただ」
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)