出居でい)” の例文
おどろに荒れた出居でいの土間に、親子か夫婦か、手足の骨まで揃った骸骨が、より添うようなかたちで抱きあっているのは、すさまじいかぎりのながめであった。
ボニン島物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
今晩も電燈が点いたので、鶴見は出居でいから土間どまに降りて、定めの椅子を引き出して腰をおろす。鶴見の席は卓の幅の狭い側面を一人で占めることになっているのである。
いわゆる出居でいは拡張せられて客座敷というものができた。それから紙の利用が自由になって、あか障子しょうじ唐紙からかみ間仕切まじきりができ、家の中の区画が立って食物はようやく統一を失った。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
屋根の形式の割合いに平凡へいぼん百姓家ひゃくしょうやで、畑に面したふたつづきの出居でいの間の、前通りの障子を明け放しにして、その床の間つきの方の部屋に主人らしい四十恰好かっこうの人がすわっていた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ほとほとと飛びあるく飛蝗ばったの足音を聞きながら、これもまた帰るなり出居でい敷莚しきむしろに寝ころがってしまった。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
一方は出居でいの間、一方は勝手で、奥に板戸の大きな押入のついた寝所があった。窓には半蔀はじとみがつき、勝手の棟から柾屋根を葺きおろして、そこが吹きぬけの風呂場になっているらしかった。
西林図 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
妹に頼まれて面甲を叩きつけに行ったときふとそう思い、気中きあたりがしてしようがなかったが、この間、いつぞやの嫌味を言いに行くと、出居でいの敷莚に胡坐をかいているやつがいる。誰だと思います。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)