其室そこ)” の例文
其室そこにはその内儀おかみさんのペートン(蓮顕れんげん)という女がやはりダージリンから一緒に来て居る。私はじきに知りましたけれども先方では全く知らない様子。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
みのるは其室そこを出て彼方此方あちこちと師匠の姿を求めてゐるうちに、中途の薄暗い内廊下で初めて師匠に出逢つた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
「わかっておる」其室そこに、龍造寺主計がいることを忘れたらしく、声が、感情をのせて、ふるえてきた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
九時半頃、秋野教師が遅刻の弁疏いひわけい/\入つて来て、何時も其室そこの柱に懸けて置く黒繻子の袴を穿いた時は、後から/\と来た新入生も大方来尽して、職員室の中はいてゐた。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一人の女がいいだしたので、皆んなが寝室へ行って戸をあけると、其室そこは鎧戸を閉め窓布リドオを引きおろしてあるものだから、真暗で見分けがつかない。今の女がじっと耳を傾けていたが
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
あらはれて国法にそむきたる罪を問はれなばそれまでなりと、深く地を掘りて密室をそのうちに造り設け、表面うわべ那処いずくへか棄てたるやうにもてなして父をば其室そこに忍ばせ置き、なほ孝養を尽しける。
印度の古話 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
其室そこは、すべてのものが几帳面に整頓されていた。
空家 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
其室そこの、うす赤く陽に染んだ畳に。
煩悩秘文書 (新字新仮名) / 林不忘(著)
プセットが其室そこに見えないのだ。
老嬢と猫 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)