八刻やつ)” の例文
海路、摂津せっつから四国へ行く便船は、こよいの八刻やつの上げ潮にともづなを解くというので、夕方の船着場は、積荷や客の送別で雑閙ざっとうしていた。
濞かみ浪人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、やり出したとき、どウウウウん、どうん! お太鼓櫓たいこやぐらで打ち出した八刻やつの合図である。長廊下の向うから多勢の気配が曲って来て、老中方お退出さがりという声がする。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
むなしく、干し柿は見過ごしてしまったが、程なく木曾第一の殷賑いんしんな地、信濃しなの福島の町中へさしかかると、折から陽も八刻やつ頃だし、腹もり頃なので
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それでも、夜は、八刻やつといや、戸をおろし、御用党とか、攘夷党とか、浪士の押込みに、ふるえ上がってる不景気さだ。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ではすぐにでも戻って来ることかと思えば八刻やつになっても九刻ここのつぎになっても、一向やって来そうもない。で、しかたがなく、手当だけはして、一間に寝かせておきましたじゃ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この下の谷間から石を切り出しているので、そこで働いている石切いしきり職人たちが、毎日の例によって八刻やつというと、ここへ甘い物をたべに来て、一頻ひとしきり番茶を飲みながら饒舌じょうぜつたのしむ。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
晩の八刻やつになると、老牢番、蔵六が、どんよりした顔を持って、勤務つとめに出てきた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『江戸の伝馬問屋を立ったのが、かれこれ、昼の八刻やつ頃(二時)ですぜ』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの石のところでか。……じゃあ、八刻やつが鳴ったら行っているぞ」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤城下に行き着いたのは、夜も八刻やつ頃であった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
義仲寺ぎちゅうじの鐘であろう、大きく八刻やつを打った。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「もう八刻やつごろでしょうか」
春の雁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八刻やつの木が鳴った。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)