入懇じっこん)” の例文
先代が格別入懇じっこんにせられた家柄で、死天しでの旅のお供にさえ立ったのだから、家中のものがうらやみはしてもねたみはしない。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「——左様でござったか、それがしの主人勝入斎輝政様と、ご入懇じっこんであろうとは、いや、存じも寄らず、失礼のだんは幾重にもひとつ御用捨のほどを」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ことに津守の浄建寺じょうけんじ洸山老衲こうざんろうのうとは、いと入懇じっこんに渡らせられ、老衲が、『六十七万石も持たせたまえば、誰も紂王の真似などもいたしたくなるものぞ。殿の悪しきに非ず』
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
入懇じっこんの弥五兵衛に深手を負わせて、覚えず気がゆるんでいたので、手錬の又七郎も少年の手にかかったのである。又七郎は槍を棄ててその場に倒れた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
人あたりがいいので、入江達三郎とも、入懇じっこんになり、手すじをみると、出来る。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平生へいぜい朋友等無之候えども、大徳寺清宕和尚せいとうおしょうは年来入懇じっこんに致しおり候えば、この遺書国許くにもと御遣おんつかわし下されそろ前に、御見せ下されたく、近郷きんごう方々かたがたへ頼入り候。
『その五郎作とやらは、吉良殿へ、よほど入懇じっこんと見えますな』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畢竟ひっきょうどれだけのご入懇じっこんになった人が殉死するという、はっきりした境はない。同じように勤めていた御近習の若侍のうちに殉死の沙汰がないので、自分もながらえていた。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)