充満いつぱい)” の例文
旧字:充滿
あのかたは大きい柳行李やなぎがうり充満いつぱいあつたあなたのふみがらをあなたの先生のところへ持つて行つて焼いたと云ふこと、こんなことでした。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
貢さんは何時いつも聞く阿母さんの話だけれど、今日はつめたい沼の水のそこの底で聞かされた様な気がして、小供心に頼り無い沈んだ悲哀かなしみ充満いつぱいに成つた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
そして夕方には、広い玄関も殆ど充満いつぱいになつて、私は往来にまで履物を並べた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
水谷は頭に腫物おできの跡が充満いつぱいある、何時いつも口からよだれの伝はつて居る厭な厭な子でした。そして水谷は子供のくせに千筋縞せんすぢしま双子織ふたこおりの着物を着て居ました。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
文庫の中には保雄と美奈子の十年前の恋の手紙が充満いつぱい収めてある。
執達吏 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
そしてうちの左の方は加茂川かもがはなのです。綺麗きれいな川なのですよ、白い石が充満いつぱいあつてね、銀のやうな水が流れて居るのです。東山ひがしやま西山にしやま北山きたやまも映ります。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
口のそばに厭な線を充満いつぱい寄せて泣いて居る子の方は、人から見て自分になぞらへられるのではあるまいかと思ふやうなひがみを私は意識せずに持つて居たかも知れません。
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)