傍眼わきめ)” の例文
「山田長政」や「虎」の絵にはその「掴んだ」と云ふ感じが顕著に出てゐる。そして彼はその狭い道の上で傍眼わきめもふらずにめき/\と進みつゝある。
箇程の技倆を有ちながら空しく埋もれ、名を発せず世を経るものもある事か、傍眼わきめにさへも気の毒なるを当人の身となりては如何に口惜きことならむ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
二階で呼鈴が鳴ると、妻が白いエプロンをかけて、麦酒びいるを盆にのせて持て行くのです。私は階段下に居ます。妻が傍眼わきめに一寸私を見て、ずうと二階に上って行く。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かれ等は別れて来た幹線——一直線に傍眼わきめも触らずに一日一夜やつて来た幹線の方を名残惜しさうに振返つた。かれ等は何とも言はれないさびしさに襲はれた。かれ等はあたりを見廻すやうにした。
浴室 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
かほどの技倆うでをもちながらむなしくうずもれ、名を発せず世を経るものもあることか、傍眼わきめにさえも気の毒なるを当人の身となりてはいかに口惜しきことならん
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
而して彼女をも同じ波瀾に捲き込むべく努めた。斯等の手紙が初心うぶな彼女を震駭しんがい憂悶ゆうもんせしめたさまは、傍眼わきめにも気の毒であった。彼女は従順にイブセンを読んだ。ツルゲーネフも読んだ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
石が大きければ水煙もおびただしいと云った様なもので、傍眼わきめには醜態しゅうたい百出トルストイ家の乱脈らんみゃくと見えても、あなたの卒直そっちょく一剋いっこくな御性質から云っても、令息令嬢達の腹蔵ふくぞうなき性質から云っても
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)