低声ていせい)” の例文
旧字:低聲
お勢がまず起上たちあがッて坐舗ざしきを出て、縁側でお鍋にたわぶれて高笑をしたかと思う間も無く、たちまち部屋の方で低声ていせいに詩吟をする声が聞えた。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
旅に乾いた唇を田舎酒に湿しめしつつ、少しい心地になって、低声ていせいに詩をうたっているスグ二階の下で、寂しい哀しい按摩笛あんまぶえが吹かれている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
「ほう、井上殿のお娘御! そういえば、さっきから見たように思ったのもむりはない」と、小平太はあたりを見廻しながら低声ていせいにつづけた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
地味な姿の売子が新しい来客の方へと急ぎ足に往つたのを見てとつた McAdoo 氏は、低声ていせいで女優に言つた。
ちょうど其の時間に、椋島技師は陸軍大臣の官邸で、剣山つるぎやま陸軍大臣と向い合って、低声ていせいで密談中であった。
国際殺人団の崩壊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は相手を興奮させない様に、出来るだけ低声ていせいで、しかし本当のことを答えるほかはありませんでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
酒に趣味をち、旅に趣味を有つ代々木は、岸本の所望で、古い小唄を低声ていせいに試みた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ミチミは、低声ていせいでそう叫ぶなり、彼とは反対の方角に身を移した。彼女はいつでも、そうした。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
帆村探偵と大江山捜査課長とは、顔を近づけて、それから約二十分というものを、低声ていせいで協議をした。それが終ると、大江山警部の顔色は、急に生々と元気を恢復してきたように見えた。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)