他郷たきょう)” の例文
けれども梅三爺は、どんな幸福が待っているとしても、先祖の墓所はかしょを見限り、生まれた土地をはなれて、知らぬ他郷たきょうへ行って暮らす気にはなれなかった。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
見ていると、旅人はさながら疲れた鳥がねぐらを求めるように、てくてくと歩いて町へはいって行った。何故なにゆえともなく他郷たきょうという感が激しく胸をついて起こった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そして、こころでは、だれか、むら青年せいねんで、他郷たきょういえったものの女房にょうぼうであろうとおもいました。
とうげの茶屋 (新字新仮名) / 小川未明(著)
たとえば他郷たきょうへ出て功をあげた子が、その都度つど、家郷の親へよろこびを告げにゆくように——彼は京都へ上っては、陛下に伏して身を低うするときの赤子せきしの情を忘れ得なかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しんの人でその資産を弟にたくして、久しく他郷たきょうに出商いをしている者があった。旅さきで妻をめとって一人の子を儲けたが、十年あまりの後に妻が病死したので、その子を連れて故郷へ帰って来た。
他郷たきょうっていさかいすべからず、ある争いもかならず不利、——ということわざは、むかしの案内記あんないきなどにはかならずしるしていましめてあることだ。まして、相手が悪そうだから、卜斎ぼくさいも悪びれないで
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)