丸潰まるつぶ)” の例文
「土地の御用聞や町役人につかまつて、到頭半日丸潰まるつぶれ、——このまゝで歸つても恰好がつかねえから、一應親分の耳にも入れて」
銭形平次捕物控:167 毒酒 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
思ったよりも長篇なので、前後半日と中一日を丸潰まるつぶしにしてようやく業をえて考えて見ると、中々骨の折れた作物である。
かしらの二日は大粒の雨が、ちょうど夜店の出盛る頃に、ぱらぱら生暖なまあったかい風に吹きつけたために——その癖すぐに晴れたけれども——丸潰まるつぶれとなった。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一日は一日とお定りのいのりの言葉に切実が加はつた。小学校で学問が出来て得意になつてゐる時でも、黒坊主々々々と呼ばれると、私の面目は丸潰まるつぶれだつた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
それは現今の如く、火災保険などいうような方法があるではなく、また消火機関が完全してもいないから、一度類焼したが最後、財産はほとんど丸潰まるつぶれになりました。
御行 (意地悪そうに笑って)……さて、それでは大納言の信用が丸潰まるつぶれになってしまう。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
まして、川を越して深川の尾張屋が乗出すようなことになると島吉の顔は丸潰まるつぶれでしょう。平次が気軽に乗出したのも無理のないことだったのです。
ありがたいと礼を云うひまもないうちに、うっとりとしちまって、生きている以上は是非共その経過を自覚しなければならない時間を、丸潰まるつぶしに潰していた。ところがめた。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「親分までそんな事を言っていちゃ、あっしは丸潰まるつぶれだ。お半という女は、そりゃ醜い女に違いないが、若旦那と嫁の間を一所懸命取持とうというほどの善人ですぜ」
「親分までそんな事を言つて居ちや、あつしは丸潰まるつぶれだ。お半といふ女は、そりやみにくい女に違ひないが、若旦那と嫁の間を一所懸命取持たうといふほどの善人ですぜ」
お若も主人も階下したへ降りると、彌吉は清太郎を殺す氣になつた。ツイ側の箪笥たんすには主人の古い差料の脇差が入つてゐる——清太郎が氣を變へてお筆の婿むこになれば、彌吉の望みは丸潰まるつぶれだ。
丸潰まるつぶれだよ、親分」