世渡よわたり)” の例文
花子はこんな世渡よわたりをする女の常として、いつも人に問われるときに話す、きまった、stéréotypeスシレオチイプ な身の上話がある。
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その箱とたらいとをになった、やせさらぼいたる作平は、けだし江戸市中世渡よわたりぐさにおもかげを残した、鏡を研いで活業なりわいとするじじいであった。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また慾にかわいて因業いんごふ世渡よわたりをした老婆もあツたらう、それからまただ赤子に乳房をふくませたことの無い少婦をとめや胸に瞋恚しんいのほむらを燃やしながらたふれた醜婦もあツたであらう。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
いづれにしても世渡よわたりの茶を濁さずといふこと無かりしかど、皆思はしからで巡査を志願せしに、上官の首尾好く、つひには警部にまで取立てられしを、中ごろにしてきんこれけんと感ずるところありて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
世渡よわたり上手の掛引をまだ覚えているな。
つい台所用に女房が立ったあとへは、鋲の目が出て髯を揉むと、「高利貸あいすが居るぜ。」とか云って、貸本の素見ひやかしまでが遠ざかる。当り触り、世渡よわたりむずかしい。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
世渡よわたりやここに一にん、飴屋の親仁は変な顔。叱言こごとを、と思う頬辺ほっぺたを窪めて、もぐもぐと呑込んで黙言だんまりの、眉毛をもじゃ。若い妓は気の毒なり、小児たちは常得意。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)