上被うはつぱり)” の例文
『むゝ、あれが御話のあつた種牛ですね。』と蓮太郎は小声で言つた。人々は用意に取掛かると見え、いづれも白の上被うはつぱり、冷飯草履は脱いで素足に尻端折。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
按摩あんまどのは、團栗どんぐりごととがつたあたまで、黒目金くろめがねけて、しろ筒袖つゝそで上被うはつぱりで、革鞄かはかばんげて、そくにつて、「お療治れうぢ。」とあらはれた。——勝手かつてちがつて、わたし一寸ちよつと不平ふへいだつた。
城崎を憶ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
古びた上被うはつぱり、茶色の帯、盲目縞めくらじま手甲てつかふ、編笠に日をけて、身体を前後に動かし乍ら、踖々せつせと稲の穂を扱落こきおとして居る。信州北部の女はいづれも強健つよい気象のものばかり。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
日の光はの小屋の内へ射入つて、死んで其処に倒れた種牛と、多忙いそがしさうに立働く人々の白い上被うはつぱりとを照した。屠手の頭は鋭い出刃庖丁を振つて、先づ牛の咽喉のどく。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)