上市かみいち)” の例文
よしのがは、下市しもいちゆくと橋こえず、かなたはるかに上市かみいちの、川ぞひ家並やなみ絵とかすむ、車峠の大坂や、車にちりぬ、山ざくら花。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
津村はその期待に胸をおどらせつつ、晴れた十二月のある日の朝、上市かみいちからくるまやとって、今日私たちが歩いて来たこの街道を国栖へ急がせた。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
吉野上市かみいち井光いひかりとか、磐排分いわおしわけの子などという土人の酋長おさが、お従いしたものでございまするし、壬申じんしんの乱のみぎりには、吉野を出られました大海人おおあま皇子みこ、天武の帝でございまするが
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
朝まだき、水戸の上市かみいち下市しもいちは、もう喧騒な庶民風景につつまれていた。馬のいななきも、人のどなり声も、薪のけむりも、あらゆる物のにおいも、旺盛な庶民の欲望と汗から離れているものはない。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして上流の左の岸に上市かみいちの町が、うしろに山を背負い、前に水をひかえたひとすじみちの街道かいどうに、屋根の低い、まだらに白壁しらかべ点綴てんてつする素朴そぼく田舎家いなかやの集団を成しているのが見える。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)