三幅対さんぷくつい)” の例文
二間の床の間に探幽の神農しんのう様と、松と竹の三幅対さんぷくつい。その前に新郎の当主甘川澄夫と、新婦の初枝。その右の下手に新郎の親代りの村長夫婦。
笑う唖女 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
現在この眼前の食堂の中に期せずして笑い上戸おこり上戸泣き上戸三幅対さんぷくついそろった会合があったのだという滑稽こっけいなる事実に気がついたのであった。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
奥には例の客が二人とこの前にすわっていた。二人とも品の好い容貌ようぼうの人で、その薄く禿げかかった頭がうしろにかかっている探幽たんゆう三幅対さんぷくついとよく調和した。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大きな床の間の三幅対さんぷくついも、濃い霧の中に、山がはるかに、船もあり、朦朧もうろうとして小さな仙人の影がすばかりで、何の景色だか、これはあかりいても判然はっきり分らなかったくらいである。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
菖蒲しょうぶの花咲乱れたる八橋やつはし三津五郎みつごろう半四郎歌右衛門など三幅対さんぷくついらしき形してたたずみたる
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
偽物三幅対さんぷくついだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ことわりてゐたりしかど金子翁かつて八百屋が先代の主人とは懇意なりける由にて事の次第をはなして頼みければ今の若き主人心よく承知して池にのぞ下座敷したざしきを清め床の間の軸も光琳こうりんが松竹梅の三幅対さんぷくつい
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)