一眸ひとめ)” の例文
翌朝あくるあさ日覚めると明け放った欞子窓れんじまどから春といってもないほどなあったかい朝日が座敷のすみまでし込んで、牛込の高台が朝靄あさもやの中に一眸ひとめに見渡された。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
が、蔵前の煙突も、十二階も、睫毛まつげ一眸ひとめの北のかた、目の下、一雪崩ひとなだれがけになって、崕下の、ごみごみした屋根を隔てて、日南ひなたの煎餅屋の小さな店が、油障子も覗かれる。
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
開け放した縁側から、遠くの山々や、山々の上の空の雲が輝いているのまで一眸ひとめに眺められた。静かな、ひろやかな、充実した自然がかっちり日本的な木枠にめられて由子の前にある。
毛の指環 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
稲田数千石の田のは、一眸ひとめのうちに入ってくる。植えられた田——まだ植えられない田が——しまになって見えた。あなたこなたには、田植笠が行儀よく幾すじにもなって並んでいるのである。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)