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やみふ
前の
夜も哥沢節の稽古に出でて
初夜過る頃四ツ谷
宇の
丸横町の
角にて別れたり。さればわが
病臥すとは夢にも知らず、八重は
襖引明けて始めて
打驚きたるさまなり。
如何なる悪縁か重二郎殿を思い
初めましたを、重二郎殿が親の許さぬ
淫奔は出来ぬと
仰しゃったから、一
室にのみ
引籠り、只くよ/\と思い
焦れて
遂に重き病気になり、
病臥して居ります
去歳わが
病伏しける折
日々看護に
来りしより追々に言葉もかけ給ふやうになりて
窃にその
立居振舞を見たまひけるが、
癇癖強く我儘なるわれに
事へて何事も意にさからはぬ
心立の殊勝なるに加へて