かく)” の例文
しかしあのたくましいムツソリニも一わんの「しるこ」をすゝりながら、天下てんか大勢たいせいかんがへてゐるのはかく想像さうぞうするだけでも愉快ゆくわいであらう。
しるこ (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
妙子にただしてみないことには、彼女がどう云う考でそんなことを云っているのか諒解に苦しむ点が多いのであったが、それはかく
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
たゞ早く死んだ和作の父親が不運で、長寿ではなかつたがかくも十何年か後れた徳次郎の父は、得意時代の一部を見たわけだつた。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
小僧の長吉と、下女のおかくを呼んで訊くと、お村が外へ出たのは亥刻よつ過ぎらしく、外から男が合図していたというので口が合います。
「さあおあがりなさい。これは天国の天ぷらというもんですぜ。最上等さいじょうとうのところです」といながらぬすんで来たかくパンを出しました。
貝の火 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかしその菫菫菜が我がスミレのいずれにあたるかは今にわかに分り兼るがかくスミレのある一種の名でそれは支那でそういうのである。
植物記 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
が、折角せっかくたのみとあってればなんとか便宜べんぎはかってげずばなるまい。かく母人ははびと瀑壺たきつぼのところへれてまいるがよかろう……。
理屈はかくとして、何もかもがヤタラに面倒臭くなって来たようだ。どうせ破れカブレの罰当り仕事だ。後は野となれ山となれだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
画だっても、巴里パリの町で見る afficheアフィッシュ のように気の利いたのはない。しかしかく広告柱があるだけはえらい。これが一つ。
独身 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
しかしまさか母死すなんて事が冗談にえるもんじゃない、ことると何か変事でも起ったのかも知れない、——かく行ってみよう」
殺生谷の鬼火 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いつもまにか、ふと、赤いかくずきんをかぶった、みょうな顔のおばあさんが、どこから出て来たか、ふと目の前にあらわれました。
ジャックと豆の木 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
私はそれは非常に不自然なことだと云ふことが第一に感ぜられます。かく、それがどう育つてゆくか枯れるかは未知の問題ですわね。
私信:――野上彌生様へ (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
薬売りはふるえあがったそうで、かく主人にあって、その顛末てんまつを語りますと、主人のいわれるには、思い当ることがあるというのです。
糸繰沼 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
至極しごく静かに知らせるといっていたが、それはかくいずれの僧侶に訊ねても、この寺へ知らせに来るというのは、真実のものらしい。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
それはかく、キーシュの狩はその後も成功つづきです。意気地いくじのない村人たちは、彼が取った肉を運ぶのにせわしいという有様でした。
負けない少年 (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
大友少年は、怪老人のキラキラ光るかくメガネと、もの言うたびに、ユラユラする白ひげを、あっけにとられて、ながめていました。
透明怪人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何故? とお訊きになるでしょうね。さあ何う云ったらよろしいやら、かくどうも悪かったので、虫がついたのでございますよ。
奥さんの家出 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……わたし身邊しんぺんには、あいにくそんな新造しんぞないが、とにかく、ふくろにして不氣味ぶきみがる。がふくろのこゑは、そんな生優なまやさしいものではない。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「これにきましては、いろいろ申しあげたいことがございますが、かく、御子息の死骸をお眼にかけたうえで、申しあげます」
悪僧 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おおそうそう、宵に母屋おもやの律師さまから頂いた大根の葉の煮ものがここにある。これを菜にしてかく箸に口をつけてご覧なさい。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あめは、しだいに小降こぶりになってきました。少年しょうねんは、両手りょうてに、四かくのかんや、びんをつつんだのをかかえて、自動車じどうしゃにもどってきました。
新しい町 (新字新仮名) / 小川未明(著)
かく、あの原稿は徹頭徹尾、君のそういう思い過しに出ているものだから、大変お気の毒だけれども書き直してはくれないだろうか。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
此日このひ宗助そうすけかくもとおもつて電車でんしやつた。ところ日曜にちえう好天氣かうてんきにもかゝはらず、平常へいじやうよりは乘客じようきやくすくないのでれいになく乘心地のりごゝちかつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かく是等を救助せずして静まるべきの筋にあらずとて、先づ救民小屋造立つくりたての間、本所回向院えこういん谷中やなか天王寺、音羽おとは護国寺、三田みた功運寺
どうして斯樣な人が叔母の家を借りて居たのか、皆目かいもく私には解りませんでしたが、かく村の旦那衆がよく集るところではありました。
女はおかくといって、年が年だけに応待も行儀もひと通り心得ているらしいので、津の国屋では故障なしに雇い入れることに決めた。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かくこの場合面と向って愚図愚図云合おうよりは勢を示して一先ひとまず外へ出た上、何とか適宜の処置を取ろうと思い定めたのである。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
見れば、自分の爲に新しい茶碗ちやわんかくはしまでが用意されてあツた。周三は一しゆあつたか情趣じやうしゆを感じて、何といふ意味も無くうれしかつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
其處そこ何者なにものかゞるに相違さうゐない、ひとか、魔性ましやうか、其樣そんことかんがへてられぬ、かく探險たんけん覺悟かくごしたので、そろ/\とをかくだつた。
主人しゆじん挨拶あいさつかく明日あすのことにするからといつただけだといふ返辭へんじである。勘次かんじはげつそりとしてうちかへると蒲團ふとんかぶつてしまつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かくわたしはばけものといふものは非常ひぜう面白おもしろいものだとおもつてるので、これくわんするほんの漠然ばくぜんたる感想かんさうを、いさゝこゝぶるにぎない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
然れども事実として、我は牢獄のうちにあるなり。今更に歳の数をかぞふるもうるさし、かくに我は数尺の牢室に禁籠きんろうせられつゝあるなり。
我牢獄 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そして、それと同じ庭園の一部らしいところで、お鳥が片手に蝙蝠傘かうもりがさをつき、一方の肩に寫眞機を入れたかくカバンをかけてゐるのもある。
泡鳴五部作:05 憑き物 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
かく、見たところ飛行機の型をして居り、申訳でいいから、エンジンもついて居り、プロペラの恰好をしたものがついて居ればいいのだ
このモダーンガールというものの好みの審美的考察は如何いかんかくその美しさの種類は、「洋風」の美しさが基本となっている。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
江戸の開城かいじょうその事はなはにして当局者の心事しんじかいすべからずといえども、かくその出来上できあがりたる結果けっかを見れば大成功だいせいこうと認めざるを得ず。
『さてこのねずみなにはなしてやらうかしら?大抵たいていみんへんことばかりだが、かくはなしてもかまはないだらう』とあいちやんがおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
どちらかといえばかくあかがおのほうで、それに痘瘡ほうそうあとがいっぱいござりましてな、右の小鬢こびんに、少々ばかり薄禿うすはげが見えまするで
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
偶々たまたま感じ候故ついでに申上候。荒木令嬢の事、かく相迎あいむかえ候事と決心仕候。しかし随分苦労の種と存候。夜深く相成候故擱筆かくひつ仕候。草々不宣。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
第十代だいじゆうだい崇神天皇すじんてんのうと、ぎの垂仁天皇すいにんてんのうころから、まへかくうしろまる前方後圓ぜんぽうこうえん立派りつぱ車塚くるまづかが、きづかれるようになつたことはうたがひありません。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
かく何か不吉なことがあると、必らずこの音を聞いたと、この自伝の中に書いてあるが、これがここ所謂いわゆる『不吉な音』の大略たいりゃくであるのだ。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
だがかく神楽坂は、私にとっては東京の中で最も好きな街の一つだ。こないだも芝の方に住んでいる友達が来て私にいった。
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
にわいたえんばな——金魚鉢きんぎょばちから六しゃくほどのへだたりがあつたが、そのえんばなにウィスキイのかくびんと、九たにらしいさかずきが二つおいてあつた。
金魚は死んでいた (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
赤と黄とみどりと青とむらさきとの五しきのしまのはいった着物きものをつけ、三かくの金色の帽子ぼうしをかぶり、緋色ひいろ毛靴けぐつをはいて、ぶらりとさがっていました。
活人形 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
しかし、かく、その時、私の眼に映じましたのは、小さいながらも人間の形を具えた三ヶ月ほどの胎児でありました。私はぞっと致しました。
手術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
僕は忙しくてとてもそんな所へ出かける理由わけには行かぬというと、かく非常に忙しいからとても教えられないと体よく断られてしまった。
先生を囲る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
上述の様な間違を起すことが稀にはあっても、かく慣れぬ旅をする人に取りては、輯製二十万分の図よりも頼りになるものでありました。
登山談義 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
かく庫裡くり——二三年前まで留守居の男のゐた庫裡を掃除して、そこに住居すまひすることの出来る準備を世話人達がして呉れた。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
不好いやところへいや/\ながらかけてくのかとあやしまるゝばかり不承無承ふしようぶしようにプラツトホームをて、紅帽あかばう案内あんないされてかく茶屋ちやゝはひつた。
湯ヶ原ゆき (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
おりから下坐敷したざしきより杯盤はいばんはこびきしおんななにやらおりき耳打みゝうちしてかくしたまでおいでよといふ、いやたくないからよしてお
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)