石燈籠いしどうろう)” の例文
新字:石灯籠
ところで——番町ばんちやう下六しもろく此邊このへんだからとつて、いし海月くらげをどしたやうな、石燈籠いしどうろうけたやうな小旦那こだんなたちが皆無かいむだとおもはれない。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
右の方は女竹めだけが二三十本立っている下に、小さい石燈籠いしどうろうの据えてある小庭になっていて、左の方に茶室まがいの四畳半があるのである。
心中 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そう云う蟻には石燈籠いしどうろうの下や冬青もちの木の根もとにも出合った覚えはない。しかし父はどう云うわけか、全然この差別を無視している。……
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
金砂のように陽の踊る庭に、こけをかぶった石燈籠いしどうろうが明るい影を投げて、今まで手入れをしていた鉢植えのきく澄明ちょうみょうな大気にかおっている。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
大きな石燈籠いしどうろうでもけんずると、私生活は出鱈目で冷酷でも、極樂行の旅券は無條件でもらへるやうに思ひ込んでゐる人も少くはありません。
今夜七時、お宮の石燈籠いしどうろうのそばで待っています。きっと来て下さい。誰にも云ってはいけません。非常に非常に大切な用件です。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そこはさっきの庭とは反対側に面しているらしい、あけてある障子の向うに、石燈籠いしどうろうなどを配した内庭を隔てて、土蔵が三棟並んでいる。
日日平安 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
おびたゞしい庭石や石燈籠いしどうろうるゐを積んだ大きな荷車を、たくましい雄牛に曳かして來るのにも逢つた。牛の口からは、だら/\とよだれが流れてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
われわれ階級の生活に許される程度のわずかな面積を泉水や植え込みや石燈籠いしどうろうなどでわざわざ狭くしてしまって、逍遙しょうようの自由を束縛したり
芝刈り (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
中門の壇上、金堂の壇上、講堂前の石燈籠いしどうろうの傍、講堂の壇上、それからまた石燈籠の傍へ帰り、右へ回って、回廊との間を中門の方へ出る。
古寺巡礼 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
五、 屋外おくがいおいては屋根瓦やねがはらかべ墜落ついらいあるひ石垣いしがき煉瓦塀れんがべい煙突えんとつとう倒潰とうかいきたおそれある區域くいきからとほざかること。とく石燈籠いしどうろう近寄ちかよらざること。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
自分は秋の夜の静寂のうち畳々じょうじょうとして波の如く次第に奥深く重なって行くその屋根と、海のように平かな敷地の片隅に立ち並ぶ石燈籠いしどうろうの影をば
霊廟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あの尚家の石燈籠いしどうろうは無事でしょうか。あの園比屋武嶽そのひやむうたきの運命は如何、崇元寺そうげんじの石門は如何。いずれも石工品として素晴らしいものばかりでした。
沖縄の思い出 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
そう独りで頷いて、十内が足を移そうとすると、その辺に潜んでいた吉良方の家来が、石燈籠いしどうろうの陰からいきなり彼の脚をねらって太刀で払った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
石燈籠いしどうろうの前には二十人ばかりの人が輪をつくっていた。そこには一枚の藁莚わらむしろせて覆うてあるものがあった。彼は人輪ひとわの間にはさまってのぞいた。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どっしりとした古風な石燈籠いしどうろうが一つ置いてあって、その辺にはまるく厚ぼったい「つわぶき」なぞも集めてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
六畳の座敷は東向で、松葉を敷き詰めた狭い庭に、大き過ぎるほど立派な御影みかげ石燈籠いしどうろうが据えてあった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
かえで桜松竹などおもしろく植え散らし、ここに石燈籠いしどうろうあれば、かしこに稲荷いなりほこらあり、またその奥に思いがけなき四阿あずまやあるなど、この門内にこの庭はと驚かるるも
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
その前列の石燈籠いしどうろうは、さまで古いものとは思われないが、六角形の笠石だけは、奈良の元興寺がんごうじ形に似たもので、たなごころを半開にしたように、指が浅い巻き方をしている。
不尽の高根 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
とうさん、もう何もすることはありません。庭石は三度も洗いました。石燈籠いしどうろうや庭木にも、よく水を
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
樫の木を移ってお銀様が、石燈籠いしどうろうの蔭へ避けた時に、神尾主膳はさながら絵に見る悪鬼の形相ぎょうそうです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さてこの世辞屋せじや角店かどみせにして横手よこてはう板塀いたべいいたし、赤松あかまつのヒヨロに紅葉もみぢ植込うゑこみ、石燈籠いしどうろうあたまが少し見えるとこしらへにして、其此方そのこなた暖簾のれんこれくゞつてなか這入はいると
世辞屋 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
こけむした石燈籠いしどうろうのかたわらを過ぎる時、わが心のいかに高められたかを必ず思い出すであろう。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
硝子戸ガラスどの店頭の一方に篠竹の小藪こやぶをあしらひ、こけ石燈籠いしどうろうのもとにはつくばひがあつて
老残 (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
小紋こもん石持こくもちを着た年増の女の、庭下駄にわげた穿いて石燈籠いしどうろうの下に蹲踞うずくまっている人形———それは「虫の音」という題で、女が虫の音に聴き入っている感じを出すのだと云って
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
村内の心ある者にはつまはじきせらるゝをもかまわずついに須原の長者の家敷やしきも、むなしく庭うち石燈籠いしどうろうに美しきこけを添えて人手に渡し、長屋門のうしろに大木のもみこずえ吹く風の音ばかり
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そのあたりは、その孟宗竹もうそうちくの藪のようになっているのだが、土の崩れかけた築山つきやまや、欠けて青苔あおごけのついた石燈籠いしどうろうなどは、いまだに残っていて、以前は中々なかなかったものらしく見える、が何分なにぶんにも
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
おどしたり、すかしたりして、問ひかけて見たが無駄むだであつた。しまひには役人は声がれて来た。そこではじめて、これは石燈籠いしどうろうに向かつて物をいつてるのと、同じだといふことがわかつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
だが日本は、古くより雅味、茶気、俳味、古雅、仙骨、埃を礼讃した国民であり、折角作り出した塑像を縁の下の土に埋め、石燈籠いしどうろうを数年間雨に打たせてこけを生ぜしめる趣味の特産地なのである。
ひらり輪先をそこの庭の石燈籠いしどうろうの首にひっかけてみせました。
或人こけを封じ来るこは奈良春日神社かすがじんじゃ石燈籠いしどうろうの苔なりと
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「あら、石燈籠いしどうろうが倒れているわ。」
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
神田から台所町へ、台所町から亀沢町へうつされて、さいわいしおれなかった木である。また山内豊覚が遺言いげんして五百に贈った石燈籠いしどうろうがある。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
けてねむ合歡ねむはなの、面影おもかげけば、には石燈籠いしどうろうこけやゝあをうして、野茨のばらしろよひつき、カタ/\と音信おとづるゝ鼻唄はなうたかへるもをかし。
五月より (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
二七不動に近き路地裏に西京汁粉さいきょうしるこ行燈あんどうかけて、はぎ袖垣そでがき石燈籠いしどうろう置きたる店口ちよつと風雅に見せたる家ありけり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「それから一目散に飛び出した。——懷中ふところの十手を取り出すわけにも行かないから、逃げの一手だ。石燈籠いしどうろうを蹴散して植込をくゞつて、裏門を出るのが精一杯」
よほど季感に敏い人だったとみえ、楓や桜なども松杉と対照して、眼立たぬようにくふうがしてあり、思わぬ灌木かんぼくの茂みに、苔付こけつきの石燈籠いしどうろうが据えてあったりした。
柘榴 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
土臭ほとんむせばんと欲す。父とをくの内外を見れば、被害は屋瓦のちたると石燈籠いしどうろうの倒れたるのみ。
石燈籠いしどうろうあま強大きようだいならざる地震ぢしん場合ばあひにもたふやすく、さうしてちかくにゐたものを壓死あつしせしめがちである。とく兒童じどう顛倒てんとうした石燈籠いしどうろうのために生命せつめいうしなつたれいすこぶおほい。
地震の話 (旧字旧仮名) / 今村明恒(著)
それは平生へいぜい見かける枯れ葉のたまった水のない石の御手洗みたらしかたわらにある石燈籠いしどうろうの燈であった。
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おゝ/\乱暴狼藉らんばうらうぜきで、飛石とびいしなぞはいぬくそだらけにして、青苔あをごけ散々さん/″\踏暴ふみあらし、折角せつかく塩梅あんばいこけむした石燈籠いしどうろうたふし、まつつちまひ、乱暴らんばうだね……何方どちらからお入来いでなすつた。
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
頼山陽の息子は、寛永寺の徳川廟前の石燈籠いしどうろうを倒して、事面倒になったことがあります。それは酔っていたということではあり、なんにしても石燈籠のことで、謝罪で事は済んだ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
次に目についたのは画面の右のはずれにある石燈籠いしどうろうである。夏の夕方には、きまって打ち水のあまりがこの石燈籠のかさに注ぎかけられた。石にさびをつけるためだという話であった。
庭の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「おとうさん、もう何もすることはありません。庭石は三度洗い石燈籠いしどうろうや庭木にはよく水をまき蘚苔こけは生き生きした緑色に輝いています。地面には小枝一本も木の葉一枚もありません。」
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
二人が帰って行く道は、その路傍みちばた石燈籠いしどうろうや石造の高麗犬こまいぬなぞの見いださるるところだ。三めんを有しいのししの上に踊る三宝荒神のように、まぎれもなく異国伝来の系統を示す神のほこらもある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雨戸をらないお屋敷のまわり縁に夜の名残りがたゆたって、むこうの石燈籠いしどうろうのあいだを、両手をうしろにまわし庭下駄を召して、煙のようにすがすがしいうす紫の明気をふかく呑吐どんとしながら
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
明智は注意深く堂の隅々、物の陰などをのぞき廻って、二三の広い部屋を通り過ぎ、最後に庭に降りると、石燈籠いしどうろうや植木の間もくまなく調べた上、板塀の開き戸を開けて、墓地の方に出て行った。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おや、また石燈籠いしどうろうのそばへ顔を寄せているぞ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
をともす石燈籠いしどうろうや○○○○○
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
両大師の横を曲がって石燈籠いしどうろうの沢山並んでいる処を通って、ふと鶯坂うぐいすざかの上に出た。丁度青森線の上りの終列車が丘の下を通る時であった。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)