こと)” の例文
或はことに利をくらわせて其下をして其上にそむかせて我にこころを寄せしめ置いて、そして表面は他の口実を以て襲って之を取るのであるし
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
たゞさへ神仙しんせん遊樂ゆうらくきやうこと私共わたくしどもは、極端きよくたんなる苦境くきやうから、この極端きよくたんなる樂境らくきやう上陸じやうりくしたこととて、はじめはみづかゆめでないかとうたがはるゝばかり。
またわがことに早かりしも愛のまさる爲ならじ、汝に焔の現はす如く、まさるかさなくも等しき愛かしこに高く燃ゆればなり 六七—六九
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
けだし忠信以下の箇条ももとより家内に行わるるといえども、あたかも親愛、恭敬、孝悌の空気の中に包羅ほうらせられてことに形を現わすを得ず。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「ええすっかり寒くなりましたものですから。それに今日のような雨の日はことにね……。」と云って彼女はかすかに微笑ほほえんだ。
湖水と彼等 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
こと青年輩せいねんはい身心しん/\發育はついく時代じだいにあるものには、いまよりこのはふ實行じつかうして體力たいりよく培養ばいやうし、將來しやうらい大成たいせいはかことじつ肝要かんえうならずや。
命の鍛錬 (旧字旧仮名) / 関寛(著)
こんな時にお互に禮服の一とつも手許にないと云ふ事がれい/\とした多くの人の集まつた後ではことに強く感じられてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
およそ異性の愛は吾愛の如く篤かるを得ざる者なるか、あるは己の信ずらんやうに、宮の愛のことに己にのみ篤からざりしなるか。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
勿論もちろんかれ仲間なかまだけがことにさうだとはへなかつた。見渡みわたしたところ、人間にんげんみんひとつ/\の不完全ふくわんぜん砕片かけらであるのに、不思議ふしぎはないはずであつた。
彼女の周囲 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
御幣担ごへいかつぎの多い関西かんさいことに美しいローマンチックな迷信に富む京都きょうと地方では、四季に空に日在って雨降る夕立を呼んで、これを狐の嫁入よめいりと言う
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
それに梅子などはどうやら其の僻論へきろんに感染して居るらしいので、おほいに其の不心得を叱つたことだ、ことに近頃彼女あれの結婚について相談最中のであるから
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それが為にこうして出向いた、真砂町の様子を聞き度さに、ことに、似たもの夫婦のたとえ、信玄流の沈勇の方ではないから、随分飜然ひらりあらわれ兼ねない。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
忽ち人々の一齊に笑ふ聲して、老公の聲のことさらに高く聞えければ、われは何事ならんとおもひつゝ、少しく歩み近づきたり。然るに我は何事をか聞きし。
六歳ばかりなるが、いと気の毒がり、女なればとてことに拘留所を設け、其処そこに入れてねんごろに介抱かいほうしくれたり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
なぜわたしがかような解り切った事を書き出したかというと、日本人にはまだ考えるということがはなはだしく欠けている。ことに日本婦人にはその欠点が著しく感ぜられる。
婦人と思想 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
つ夫れ兇器の横威、人倫をみだし、天地をくらうする事久し。ことに欧洲に於て然りとなす。甘妙なる宗教の光明も暗憺たる黒雲に蔽はれて、天魔幕上に哄笑するかとぞ思はる。
「平和」発行之辞 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
却つて我々が送るも新しからずやとことばはかけずうしろについて幸堂氏の家まで到りこゝに新たに送別會を開きぬ我三人によろづの失策皆な酒より生ず旅中はことにつゝしむべしと一句を示す
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
皇后陛下御入輿じゆよの儀に付ては、維新前年より二条殿、中山殿等ことほか心配致され、両卿より忠至に心懸御依頼に付奔走の折柄、兼て山陵の事に付懇意たりし若江修理大夫娘薫儀
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
はたらき其場所に取落し置たるに相違さうゐあるまじ尋常に白状せよことに長庵が申立に其方事前日長庵方へ藥取くすりとりに參り合せ十兵衞が娘を吉原町へうり其金を持て歸りし時の容子ようすみとめ其方惡意あくい
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
私は先達せんだッて台湾に三月ばかり行ッていて、十日前に京都へ帰ッて、外国人に会ッて英語をしゃべるのに、平生でもそう流暢りゅうちょうにしゃべるのではないが、ことにしゃべりにくかッた、そんなもので
人格の養成 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
主人は、口をことに結びて、みつけ居たりしが、今、江戸川にて自ら釣りしといひし鮒を、魚屋より取りしと披露されては、堪へきれず、其の説のおわるを待たず、怒気を含みて声荒々しく
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
一は曰く飽迄あくまで従前の如く水中をさかのぼらん、一は曰く山にのぼり山脈を通過つうくわして水源の上にでん、ことに人夫中冬猟の経験けいけんありて雪中せつちう此辺にきたりしもの、皆曰く是より前途はけんさらに嶮にしていう更に幽
利根水源探検紀行 (新字旧仮名) / 渡辺千吉郎(著)
遠く源平時代より其証左は歴々と存していて、こと足利あしかが氏中世頃から敗軍の将士の末路は大抵土民の為に最後の血を瀝尽れきじんさせられている。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
我は汝を髮乾ける日に見しことあり、汝はルッカのアレッショ・インテルミネイなり、この故にわれことに目を汝にとゞむ 一二一—一二三
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
一時ひとしきり世の中がラジウムばやりだった頃、つきものがしたようににぎわったのだそうですが、汽車に遠い山入りの辺鄙へんぴで、ことに和倉の有名なのがある国です。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに梅子さんほかの方の妻君おくさんなど不思議だと思ひますよ、男子の不品行は日本の習慣だし、ことに外交官などは其れが職務上の便宜べんぎにもなるんだからなんて
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
込合へる人々のおもては皆赤うなりて、白粉おしろい薄剥うすはげたるあり、髪のほつれたるあり、きぬ乱次しどな着頽きくづれたるあり。女はよそほひ飾りたれば、取乱したるがことに著るく見ゆるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ことこの印度洋インドやうでは是等これら苦難くなんほかに、今一個いまひとつもつと恐怖おそき『海賊船かいぞくせん襲撃しゆうげき』といふわざわいがある。
友なる士官がかく話頭を轉じたるとき、我はそのことなるなざしを見き。こはベルナルドオが學校にありしとき屡〻ハツバス・ダアダアに對してなしたる目なざしなりき。
この二人ににんことに典獄より預けられて、読み書き算盤そろばんの技は更なり、人の道ということをも、説き聞かせて、及ぶ限りの世話をなすほどに、やがて両女がここに来れる仔細しさいを知りぬ。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
しかして其中そのうちにも學海先生ガクカイセンセイ國民こくみんともかゝげられし評文ひようぶんこと見目立みめたちてえぬ。
「罪と罰」の殺人罪 (旧字旧仮名) / 北村透谷(著)
送らんことに木曾とありては玉味噌と蕎麥そばのみならん京味を忘れぬ爲め通り三丁目の嶋村にて汲まんと和田鷹城子わだおうじやうしと共に勸められ南翠氏が濱路はまぢもどきに馬琴ばきんそつくりの送りのことばに久しく飮まぬゑひ
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
机の前の座に着けば、常には、書損じの反故ほご、用の済みし雑書など、山の如く積み重なりて、其の一方は崩れかゝり、満面塵に埋もれ在る小机も、今日だけは、ことに小さつぱりなれば、我ながら嬉し。
元日の釣 (新字旧仮名) / 石井研堂(著)
平八郎の手には高橋、堀井、安田、松本等の与党がゐる。次は渡辺、志村、近藤、深尾、父柏岡等重立おもだつた人々で、ことに平八郎に親しい白井や橋本も此中にゐる。一同着込帯刀きごみたいたうで、多くは手鑓てやりを持つ。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
我輩のことに憐れむ所のものなり。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こと癇癖かんぺき荒気あらきの大将というので、月卿雲客も怖れかつ諂諛てんゆして、あたかもいにしえの木曾義仲よしなかの都入りに出逢ったようなさまであった。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
さればこそわが誰なるやまた何故にこの樂しきむれの中にてことによろこばしく見ゆるやを汝は我に問はざるなれ 五八—六〇
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ことに、小田原へ使いに参った娘から聞きますと、それをまた、宮で受け取った神官かんぬしと申すのが、容易なりません風体。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
へいを高くし門を固めて暖き夢にふけつて居るのを見ては、暗黒の空をにらんで皇天の不公平——ぢやない其の卑劣を痛罵つうばしたくなるンだ、ことに近来仙台阪の中腹に三菱の奴が
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
こと櫻木海軍大佐さくらぎかいぐんたいさ朗々らう/\たる詩吟しぎんにつれて、何時いつおぼえたか、日出雄少年ひでをせうねんいさましき劍舞けんぶ當夜たうやはなで、わたくし無藝むげいのために、只更ひたすらあたまいたのとともに、大拍手だいはくしゆ大喝釆だいかつさいであつた。
有繋さすがに通常罪人を以て遇せず言葉も丁寧ていねいに監守長の如きも時々見廻りて、ことに談話をなすを喜び、中には用もなきに話しかけては、ひたすら妾の意を迎えんとせし看守もありけり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
明日あすの祭はことに尊きものゝ如く思はれぬ。我喜は兒童の喜にゆづらざりき。横街といふ横街には「コンフエツチイ」のたま賣る浮鋪とこみせのきを列べて、その卓の上には美しき貨物しろものを盛り上げたり。
豪傑英雄はことに至粋のインスピレイションをうくる者にてあれど、シイザルはシイザルにて、拿翁ナポレオンは拿翁たるが如く、至粋を享くる量は同じくとも、其英雄たるの質は本然に一任するのみ。
徳川氏時代の平民的理想 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
いでたる目には何事も都めくにことに此の橋力はしりきといふは中山道なかせんだう第一といふべき評判の上旅籠屋じやうはたごやにて座敷も廣く取扱ひも屆き酒もよく肴もよし近年料理屋より今の業に轉じ專心一意の勉強に斯く繁昌を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
でてはさすがにつかれて日暮に帰り来にける貫一は、彼の常として、吾家わがいへながら人気無き居間の内を、旅の木蔭にもやすらへる想しつつ、やや興冷めて坐りもらず、物の悲きゆふべことひとりの感じゐれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
漁史自ら「鈎政はりまさ」に型を授けて、ことに造らせしものに係る。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
ことに玉を展べたる様の美しき人なれば、自己が生の女の婿がねにと叔母の思ひつきぬるも然ることながら、其望みの思ふがまゝにならで
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
こと炬燵こたつ出来できたからわたしそのまゝうれしくはいつた。寐床ねどこう一くみ同一おなじ炬燵こたついてあつたが、旅僧たびそうこれにはきたらず、よこまくらならべて、のない臥床ねどこた。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
されどかしこにてこと危險あやふきを顧みざるは船手をぶる人々なるべし
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
ことに此頃流行の何玉何々玉といふ類、まるで薬玉くすだまかなんぞのやうなのは、欧羅巴ヨーロッパから出戻りの種で、余り好い感じがしないが
菊 食物としての (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)