板敷いたじき)” の例文
村は加波山事件の加波山の東麓にあたり、親鸞しんらん聖人の旧蹟として名高い板敷いたじき山のいただきは北方の村境であり、郡境ともなっている。
加波山 (新字新仮名) / 服部之総(著)
かまちがすぐにえんで、取附とッつきがその位牌堂。これには天井てんじょうから大きな白の戸帳とばりれている。その色だけほのかに明くって、板敷いたじきは暗かった。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
垢離場こりば板敷いたじきにワラの円座えんざをしいて、数日つつしんでいた人々は、いちやくあたたかい部屋へやとうやうやしいもてなしにむかえられてきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武士の中に巨勢こせ熊檮くまがしなる者、一九七きもふとき男にて、人々我があときて来れとて、一九八板敷いたじきをあららかに踏みて進みゆく。ちりは一寸ばかり積りたり。
併し、縁側にも、暗い空の影が動いていて、植え込みの緑が板敷いたじきの上一面に溶けているのであった。
栗の花の咲くころ (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
が、いきおいついた新吉の身は、わか姉さんの手をすりけ、ファットマンの頭にぶつかると、もんどり打って下の板敷いたじきへ、まっさかさまにたたきつけられた、と思ったその刹那せつなです。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
当らずということなし。例えばお前のウチの板敷いたじきを取り離し、土を掘りて見よ。古き鏡または刀の折れあるべし。それを取り出さねば近き中に死人ありとか家が焼くるとかいうなり。
遠野物語 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
食事の時にはとても座ってうなんとうことは出来た話でない。足も踏立ふみたてられぬ板敷いたじきだから、皆上草履うわぞうり穿はいたって喰う。一度は銘々にけてやったこともあるけれども、うは続かぬ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
若黨の勇吉は眼を廻したまゝ暫く玄關の板敷いたじきつて置かれましたが、御方便なもので、これは獨りで正氣にかへりました。さすがに面目めんぼくないと思つたものか、コソコソ逃げ出さうとすると
その翌日から、不思議なことが八幡様はちまんさまに起こりました。今まで荒れ果てていたお宮の中が、綺麗きれい掃除そうじされました。屋根はつくろわれ、柱や板敷いたじきは水でかれ、色々の道具はみがき上げられました。
狸のお祭り (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
年頃拭込ふきこんだ板敷いたじきが向側の窓の明障子あかりしやうじの光線で水を流した様に光る。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
台所は昨年の新築に成り、主人公の伯爵が和洋の料理に適用せしめんと最も苦心せられし新考案の設備にてその広さ二十五坪、なかば板敷いたじき半はセメントの土間にして天井におよそ四坪の硝子明取がらすあかりとりあり。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
四方しほう板囲いたがこいにして、わずかに正面しょうめん入口いりぐちのみをのこし、内部なかは三つぼばかりの板敷いたじき屋根やね丸味まるみのついたこけらき、どこにも装飾そうしょくらしいものはないのですが、ただすべてがいかにもかむさびて、屋根やねにも
大勢の人々に毎日踏まれて、板敷いたじきはすっかり減っています。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
房枝は、うすい板敷いたじきの舞台の上で、そっと涙をのんだ。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御留主おるすとなれば広き板敷いたじき 兆
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
奥に見えるは板敷いたじき
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
それらのかそけきうちに交わされる主客の和敬わけいの礼とむつみを、水屋の宗易はやはり前のままの姿で、板敷いたじきに凍りついた人の如く聞きすましていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、局は、もの優しく微笑ほほえんで、また先の如く手を取つて、今度は横斜違よこはすかいに、ほの暗い板敷いたじき少時しばし渡ると、ぱっともみぢの緋の映る、脇廊下わきろうかの端へ出た。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この座敷は板敷いたじき床畳とこだたみを用意してあり、几帳きちょう御厨子みずしなどの部屋の調度のかざりといい、壁代かべしろの絵といい、みんな時代のついた由緒ありそうな品で、とうてい身分のない人の住居ではない。
身體からだゆすり、下駄げたにて板敷いたじき踏鳴ふみならすおとおどろ/\し。そのまゝ渡場わたしばこゝろざす、石段いしだん中途ちうとにて行逢ゆきあひしは、日傘ひがささしたる、十二ばかりの友禪縮緬いうぜんちりめん踊子をどりこか。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そばには、咲耶子さくやこもいて、氷のような板敷いたじきにかしこまり両手をひざにおいて、つつしんで聞いている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
塾生じゆくせい家族かぞくとがんで使つかつてゐるのは三室みま四室よまぎない。玄關げんくわんはひると十五六疊じふごろくでふ板敷いたじきそれ卓子テエブル椅子いすそなへて道場だうぢやうといつたかくの、英漢數學えいかんすうがく教場けうぢやうになつてる。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
天守てんしゆいしずゑつち後脚あとあしんで、前脚まへあしうへげて、たかむねいだくやうにけたとおもふと、一階目いつかいめ廻廊くわいらうめいた板敷いたじきへ、ぬい、とのぼつて外周囲そとまはりをぐるりと歩行あるいた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
嬰兒あかんぼてのひらかたちして、ふちのめくれたあないた——あなから、くだん板敷いたじきを、むかうの反古張ほごばり古壁ふるかべ突當つきあたつて、ぎりゝとまがつて、直角ちよくかく菎蒻色こんにやくいろ干乾ひからびた階子壇はしごだん……とをばかり
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
堂へかれて、はしら板敷いたじきへひらひらと大きくさす月の影、海のはてには入日いりひの雲が焼残やけのこって、ちらちら真紅しんくに、黄昏たそがれ過ぎの渾沌こんとんとした、水も山もただ一面の大池の中に、その軒端のきばる夕日の影と
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ぴつたりめたふすままい……臺所だいどころつゞくだゞつぴろ板敷いたじきとのへだてる……出入口ではひりぐちひらきがあつて、むしや/\といはらんゑがいたが、年數ねんすうさんするにへず、で深山みやまいろくすぼつた、引手ひきてわき
霰ふる (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ふ/\燈心とうしんともして、板敷いたじきうへ薄縁うすべりべたり、毛布けつとく……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ひく太鼓橋たいこばしわたるくらゐ、拭込ふきこんだ板敷いたじきしかもつるりとすべる。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)