御方おかた)” の例文
矢張やは歴史れきし名高なだか御方おかただけのことがある。』わたくしこころなかひとりそう感心かんしんしながら、さそわるるままに岩屋いわや奥深おくふかすすりました。
「御領土の下に生れ、日頃からまた、仕えるなら御方おかたと、胸に思い込んでおりましたため、つい、口にも出たものと思われます」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……なれども只今のような不思議な御方おかたが、この街道をお通りになりました事は天一坊から以来このかた、先ず在るまいと存じまするで……」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
またかや此頃このごろをりふしのお宿とまり、水曜會すゐようくわいのお人達ひとたちや、倶樂部ぐらぶのお仲間なかまにいたづらな御方おかたおほければれにかれておのづと身持みもちわるたま
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
早く……まア/\これへ……えゝ此の御方おかた下谷したやの金田様だ、存じているか、これから御贔屓になってお屋敷へ出んければ成らん
梅若七兵衛 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
たヽつてる御方おかたがあつてさるのかも知らんけれど、あれでは今に他人様ひとさまの物に手を掛けて牢屋ろうやへ行く様な、よい親の耻晒はぢさらしに成るかも知れん。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
この御方おかたは中津の御家中ごかちゅう、中村何様の若旦那で、自分は始終そのお屋敷に出入でいりして決して間違まちがいなき御方おんかただから厚く頼むと鹿爪しかつめらしき手紙の文句で
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
なんと……おなこと昨年さくねんた。……篤志とくし御方おかたは、一寸ちよつと日記につき御覽ごらんねがふ。あきなかばかけて矢張やつぱ鬱々うつ/\陰々いん/\として霖雨ながあめがあつた。三日みつかとはちがふまい。
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
イヤしからぬ野暮やぼいわるゝは都の御方おかたにも似ぬ、今時の若者わかいものがそれではならぬ、さりとては百両投出なげだして七蔵にグッともわせなかったさばき方と違っておぼこな事
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
大分立派な御方おかたである。年頃はひどく老人という訳ではないから、いよいよ話を進めたいと思う——
縁談 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
御方おかたですし、外には、門野は一人子だものですから、小舅こじゅうとなどもなく、却て気抜けのする位、御嫁さんなんて気苦労のらぬものだと思われたのでございました。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
鍾愛しょうあいの、美しい孫姫さんが、御方おかた(姫の住居—離れたお部屋)に乳母たちにかしずかれていた。
多分はオカタに大をかぶせたもので、田舎武士が郷里から携えてきた語だとしても、京都語の北のかたや東のたいなどと別のものでなく、起こりは御前の「前」も同然の「御方おかた」で
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
読者諸君を草木くさきに対しては素人しろうとであると仮定し、そんな御方おかたになるべく植物趣味を感じてもらいたさに、わざとこんな文章、それは口でお話するようなしごく通俗な文章を書いてみたのである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
海山にもかへがたき御恩をあだにいたしそうろう罪科つみとが、来世のほどもおそろしく存じまゐらせ候……とあってお園の方の手紙にはただ二世にせ三世さんぜまでも契りし御方おかたのお身上みのうえに思いがけない不幸の起りしため
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しもあなたのようなさしい御方おかた最初さいしょからお世話せわをしてくださったら、どんなにか心強こころづよいことであったでございましたろう……。
「旦那様は鯉のお刺身と木の芽田楽が大層お好きと、その御方おかた仰言おっしゃりました。それであにさんが大急ぎで作りました」
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
とても相談さうだん相手あいてにはならぬの、いはゞ太郎たらう乳母うばとしていてつかはすのとあざけつておつしやるばかり、ほんに良人おつとといふではなく御方おかたおに御座ござりまする
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それはしからん事で、何うもお前さんの様な物の理合りあいの解らん御方おかたは有りません、若主人は全くその若草花魁のために斯んな淋しい処に窮命して居る身の上ですから
やさしい京の御方おかたの涙を木曾きそに落さおとさせよう者を惜しい事には前歯一本欠けたとこから風がれて此春以来御文章おふみさまよむも下手になったと、菩提所ぼだいしょ和尚おしょう様にわれた程なれば
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
百人一首と云ふ歌の本においで遊ばす、貴方方あなたがたにはお解りあるまい、尊い姫君の絵姿に、面影おもかげさせられた御方おかたから、お声がかりがありました、其の言葉に違ひありませぬ。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この豐玉姫様とよたまひめさまわれる御方おかたは、だい一の乙姫様おとひめさまとして竜宮界りゅうぐうかい代表だいひょうあそばされる、とうと御方おかただけに、矢張やはりどことなく貫禄おもみがございます。
ハテ岩崎弥之助君いはさきやのすけくんです、なんだつて日本銀行総裁にほんぎんかうさうさいといふのだからきんばかりもくらゐあがるか大層たいさうな事です、アノ御方おかたやりでもいて立つた姿は、毘沙門天びしやもんてんさうもあります
七福神詣 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
よしや良人おつと藝者狂げいしやぐるひなさらうとも、かこものして御置おおきなさらうとも其樣そんこと悋氣りんきするわたしでもなく、侍婢をんなどもから其樣そんうわさきこえまするけれどれほどはたらきのある御方おかたなり
十三夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
百人一首ひやくにんいつしゆうたほんにおいであそばす、貴方方あなたがたにはおわかりあるまい、たふと姫君ひめぎみ繪姿ゑすがたに、面影おもかげさせられた御方おかたから、おこゑがかりがありました、言葉ことばちがひありませぬ。
印度更紗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
オヽおたつかと抱き付かれたる御方おかた、見ればひげうるわしくおもて清く衣裳いしょう立派なる人。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ちしもの此文このふみにはなん文言もんごんどういふふうきてるにや表書おもてがきの常盤木ときわぎのきみまゐるとは無情つれなきひとへといふこと岩間いはま清水しみづ心細こゝろぼそげにはたまへどさても/\御手おてのうるはしさお姿すがたは申すもさらなり御心おこゝろだてとひお學問がくもんどころなき御方おかたさまにおもはれてやとはよもやおほせられまじ深山育みやまそだちのとしてくらものになるこゝろ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)