容貌きりやう)” の例文
蒼白い顏が少し弱々しく見えますが、粗末な身扮みなりに似合はぬ美しさで、存分によそほはせたら、お喜多におとらぬ容貌きりやうになるでせう。
さのみは愛想の嬉しがらせを言ふやうにもなく我まゝ至極の身の振舞、少し容貌きりやうの自慢かと思へば小面が憎くいと蔭口いふ朋輩もありけれど
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
先生の妹さんなんぞは年は若し、容貌きりやうは好し、それで薙刀でも竹刀でも免許皆傳で、大抵の男はかなはないのだからな。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
けれども又、同時に誰が見てもみのるの容貌きりやうは舞臺の人となるだけの資格がないと云ふことも明らかに思はせた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
僕の友達で新聞社に居た男だが、高等文官試驗に及第して官吏になつた、すると財産まで持つて嫁に來やうと云ふ相當な容貌きりやうのものが澤山出て來たさうだ。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
渡世としお三婆々さんばゝよばれたり娘も追々おひ/\成長せいちやうして容貌きりやうも可なりなるにはや年頃になれば手元におくも爲によからじ何方いづかたへ成とも奉公ほうこういださんと口入の榎本屋えのもとや三藏を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
婿は綾さんの出てゐる工場の職工で、先方から望むで貧乏な家に入らうといふのであツた。無論綾さんの容貌きりやうを命にして來る婿だ。綾さんも滿更でもなかツたらしい。
昔の女 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
さすがは多くの女ども、見飽きたまひし旦那の御鑑識めがねほどありてと、御容貌きりやうには誰も点の打人うちてなきに、旦那様も御満足の、その当座こそ二世も三世も、浮気はせまいと心の錠。
今様夫婦気質 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
女はわしが触れる事が出来るかと思はれる程、近くにゐる——が実際は、わしから可成離れて、内陣のずつと向うの欄干のあたりにゐたのである——年も若く、容貌きりやうも驚くばかり美しい。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
あなたをいどまうとしながら表面うはべでは学校のあの二人の才媛の何方どちらをあなたは未来の妻にしたいと思ふかなどと云ふ話ばかりをして居たと云ふこと、あなたは第一の才媛は容貌きりやうが悪いから厭だ
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
男でも女でも耳朶が赤く匂つて透いて見える時は、その人の容貌きりやうよりも、美しく目をひくことがある。むかしの女は、上布のひとでもなるみの浴衣でも、その點におろそかでなかつたやうである。
夏の女 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
「——お前もやつれて容貌きりやうがおちたと思つてよ。」
二人の男 (新字旧仮名) / 島田清次郎(著)
あのお喋舌しやべりで浮氣つぽくて容貌きりやう自慢で、若旦那とはまるつきりそりの合はないお萬と一緒にされるが嫌で、ツイ自棄やけなことがあつたかも知れないが
なるほどお前の容貌きりやうならば、廓へ身をしづめて相當の金にもなるだらう。おれも樂が出來るかも知れない。併しそんなことがどうしてさせられるものか。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
いからしコレ小僧和主てまへ何處どこの者かは知ねど大藤の娘お光さんに癲癇が有るるとは何の謔言たはごとあのお光さんは容貌きりやうく親孝心でやさしくて癲癇所ろか病氣は微塵みぢんいさゝかない人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
此後は東京廣しといへども、山村の下女に成る物はあるまじ、感心なもの、美事の心がけと賞めるもあれば、第一容貌きりやうが申分なしだと、男は直きにこれを言ひけり。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
それにみのるの容貌きりやうでは舞臺へ出ても引つ立つ筈がないと義男は思つてゐた。
木乃伊の口紅 (旧字旧仮名) / 田村俊子(著)
そんな事を思合せると、流石さすがに實利主義な世の中には呆れ返つたと云つて居るです。今時の日本の女には八百屋お七見たやうに男の容貌きりやう恍惚うつとりして身をあやまつやうな優しい情愛と云ふものは微塵もない。
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
あの女は多勢の男へ附合つて、その一人々々を鏡にして、自分の才智や愛嬌や辯舌や容貌きりやうを映して樂しんでゐたんだね。
此後このご東京とうけうひろしといへども、山村やまむら下女げぢよものはあるまじ、感心かんしんなもの、美事みごとこゝろがけとめるもあれば、だい容貌きりやうが申ぶんなしだと、をとこきにこれをひけり。
大つごもり (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
年のころは廿一二、容貌きりやうはよし、姿は好し、氣前はよし、なにしろ入山形いりやまがたに二つ星のなか町張ちやうばりで……。あなた方は御承知ございますまいが、一體仲の町張りと申しますと……。
箕輪の心中 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
考へ出し妹娘のお富も幸ひ十二さうそろひし容貌きりやうなればだまして是をも金にせんと己れが惡事仲間の早乘はやのりの三次と云ふ者を語合かたらひ又近所の後家ごけにて惡婆あくばのお定と云ふ女をも手なづけ置きやがて母の御安にはお富を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
これはお冬にもして美しい容貌きりやうですが、何處か病身らしく、日蔭の花のやうにたよりない娘です。年の頃は十八九。
桂次は東京に見てさへるい方では無いに、大藤村の光る君歸郷といふ事にならば、機場はたばの女が白粉のぬりかた思はれると此處にての取沙汰、容貌きりやうのわるい妻を持つぐらゐ我慢もなる筈
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
袷の裏まではがして賣る有樣、妹のお雪は二十一二のすぐれた容貌きりやうですが、これも、尾羽打枯して見る影もありません。
上杉のおぬひと言ふ、桂次がのぼせるだけ容貌きりやうも十人なみ少しあがりて、よみ書き十露盤そろばんそれは小學校にて學びし丈のことは出來て、我が名にちなめる針仕事は袴の仕立までわけなきよし
ゆく雲 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あの通り容貌きりやうよしだし、人にも可愛がられるたちだが、氣味の惡いことがあつて、どうも長くは置けなかつたさうだ。
やみつねなるひとおやごヽろ、ゆゑみちまよはぬはきものをとさとし此處こヽむれば、香山家かやまけ三人みたり女子むすめうちかみむづかしくすゑ活溌はねにて、容貌きりやう大底たいていなれどもなんとしてきみおよものなく
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
房五郎の後添、お駒の爲には繼母に相違ありませんが、本當によく出來た人で、四十八九にしては若々しい容貌きりやうと共に、町内でも褒めものの女房だつたのです。
ふく姿すがた高下かうげなくこゝろへだてなくかきにせめぐ同胞はらからはづかしきまでおもへばおもはるゝみづうをきみさまくはなんとせんイヤわれこそは大事だいじなれとたのみにしつたのまれつまつこずゑふぢ花房はなぶさかゝる主從しゆうじうなかまたとりや梨本なしもと何某なにがしといふ富家ふうかむすめ優子いうこばるゝ容貌きりやうよし色白いろじろほそおもてにしてまゆかすみ遠山とほやまがたはなといはゞと比喩たとへ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「へエ、少しは響きますが、でも、お關さんがゐらつしやれば、大したことはないと思ひます。容貌きりやうはお玉さん程でなくても、あの愛嬌で人氣を呼びますから」
天道てんたう樣の下で見ると、決して良い容貌きりやうではありませんが、陽氣で仇つぽくて、調子がよくて、これで厚化粧でもしたら、隨分ガラツ八を面喰はせたことでせう。
「お婆さん、編笠乞食のところへ來る娘さんは、ありや何だらうねえ、大層な容貌きりやうだつて評判だが——」
なるほどこれは美しい容貌きりやうです。精々十七八、血色のあざやかな瓜實顏に、愛嬌あいけうがこぼるゝばかり。
「さうだらうねえ、お前ほどの容貌きりやうぢや、へちまの水にも南蠻渡來の白粉にも及ぶめえ」
女はひどく恐縮して、二人へ辯解いひわけをするともなく、顏の袖を取りました。どての掛行燈は少し遠過ぎますが、丁度田圃の上へ出た月が、その素晴らしい容貌きりやうを、惜みなく照し出します。
二十四にしてはひどくけてをりますが、足が少し惡いといふ外には、何んの非の打ちどころもない女で、容貌きりやうも滿更でなく、働きも充分、家中の褒めものになつてゐるお道でした。
「それほどの容貌きりやうが、何んだつて鬼の重三郎のところに奉公なんかしてゐるんだ」
銭形平次捕物控:130 仏敵 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
八五郎も一應はこの飯炊女を疑ひましたが、不具で不容貌きりやうで、その上小柄で、ボロ切れのやうな見る影もない姿を見せ付けられると、つまみ喰ひ以上の惡事などは出來さうにも思はれません。
乳母うばのお霜は可愛い子のやうに言ひますが、外の奉公人や近所の人は、容貌きりやうも惡く、身體も弱く、心持まで少し發育が遲れて、七つといつても、精々五つ位にしか見えなかつたと言つて居ります。
相變らず鏡の中の自分の容貌きりやうに見とれ乍らせつせとみがいてゐましたよ。
矢取女三人は、おさの、お民、お銀と言つて、十六から十九まで、お千勢ほどではなくとも、かなり容貌きりやうを揃へてあるのは、さすがにこの土地の矢場で、第一等の繁昌を誇るだけのことはあります。
「だがネ親分、あのお絹さんとか言ふ、お孃さんは大した容貌きりやうだね」
唐臼からうすを踏むやうな大跛足おほちんばで、澁紙色の顏には、左の頬からびんへかけて、大燒痕おほやけどの引つつりがある上、髮は玉蜀黍たうもろこしの毛のやうな女——、年こそ三十前後ですが、これは又あまりに痛々しい不容貌きりやうです。
容貌きりやうのよいのが幸か不幸か、到頭側近くお世話することになつた。