かき)” の例文
と絶叫しながら、方丈のかきをこえて逃げようとしたが、肥っているので転げ落ちたところを、張闓の手下が槍で突き刺してしまった。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公園や会堂のかきの内に葉は多葉でロウソクを立てたような白い花が咲く樹を見受ける。英人はホースナッツ・ツリーといっている。
マロニエの花 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
女の歴史のくりひろげられる場面がそれぞれの家庭というかきの内に限られていたとおり、愛の作用まで無意識の狭さを与えられた。
衣の綻びたるは、かきまがき穿うがちし時のあやまちなり。われ。さらば女はいかなりし。渠。晝見しよりも美しかりき。美しくしてかたくなならざりき。
子供の時、弟と一緒に寝たりなどすると、彼はよくうつっ伏せになって両手でかきを作りながら(それが牧場のつもりであった)
城のある町にて (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
男に別れてかきを越え、家を越えて立ち去ったので、崔も暫くはただ驚嘆するのみであった。やがて女はまた引っ返して来た。
事実、最初は法水のよくやる手——と思い、十分警戒していたにもかかわらず、ついに意表に絶した彼の透視が、そのかきを乗り越えてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
横佩かき内の郎女は、どうなるのでせう。宮・社・寺、どちらに行つても、神さびた一生。あつたら惜しいものだな。
死者の書:――初稿版―― (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
ペチュニアの甘っぽいかおりが、覧台テラースかきの下に眠ってる暗い運河の、白けたやや腐れっぽいにおいに交っていた。
さて、まわりに人のかきが出来ると、李は嚢の中から鼠を一匹出して、それに衣装を着せたり、仮面めんをかぶらせたりして、屋台の鬼門道きもんみちから、場へのぼらせてやる。
仙人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私はただ自分のぐるりを取囲んでいる目に見えぬ高いかき、それが自分をひとりぽっちにしていることに気づいてそれが少なからず私を悶えさせるものであった。
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
まことこのみな聖人せいじんなるも、えきしてわたくのごとひくきことあたはず。すなは(一〇〇)能仕のうしづるところあらず。そう富人ふうじんあり、あめりてかきやぶる。
わが断腸亭奴僕ぬぼく次第に去り園丁来る事また稀なれば、庭樹いたずらに繁茂して軒を蔽い苔はきざはしを埋め草はかきを没す。年々鳥雀ちょうじゃく昆虫の多くなり行くこと気味わるきばかりなり。
夕立 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
或は言を大にしてかきせめぐの禍は外交の策にあらずなど、百方周旋しゅうせんするのみならず、時としては身をあやううすることあるもこれをはばからずして和議わぎき、ついに江戸解城と
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
これまではただ無知で済んでいたのである。それが急に不徳義に転換するのである。問題はひとえに智愚をさかいする理性一遍のかきを乗り超えて、道義の圏内けんないに落ち込んで来るのである。
学者と名誉 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
長崎へ行って新しい文化に目が開くと、更に日本の現状があきたらなくなってくる。世界の大勢を知らずに同胞かきせめいでいる京阪の中心地に於ける闘争が、どうしても黙って見ておれない。
青年の天下 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
わが見るところを以てすれば、逍遙子はシエクスピイヤが詩の全局面に客觀といふ名を附けたる後、更にかきの外なる別天地あるやうにおもひてこれに主觀といふ名を負はせたるなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
しからば御無礼する、あとの事はよろしく頼む、そう言い捨てて、侍は二人ともそこを立ち去り、庭からかきを乗り越えて、その夜のうちに身をかくしたという。これが当時の水戸の天狗連てんぐれんだ。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かのかきを越えてはしるなどのみだりがましき類ならねば、た何をか包みかくさんとて、やがて東上の途中大阪の親戚に立ち寄らんとの意をらしけるに、さらばその親戚はれ町名番地は如何いかになど
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
中国の書物の『秘伝花鏡ひでんかきょう』にある紫羅襴(イチハツ)の文中に「性喜コノム高阜墻頭レバ則易」とあるところをみれば、同国でも高いおかかきの背に生えることがあると見える。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
本所ほんじょ茅場町かやばちょうの先生の家は、もう町はずれの寂しいところであった。庭さきのかきの外にはひろい蓮沼はすぬまがあって、夏ごろはかわずやかましいように鳴いていた。五位鷺ごいさぎ葭切よしきりのなく声などもよく聞いた。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
その仕方しかたは夏のすゑより事をはじめて、岸根きしねより川中へ丸木のくひたてつらね横木よこきをそえ、これに透間すきまなく竹簀たけすをわたしてかきのごとくになし、川の石をよせかけてちからとなす。長さは百けん二百間にいたる。
なげうった紙は、かきを越えて隣の家の庭へ落ちたのである。
純情狸 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
民族のかきを撤したソヴェート!
間島パルチザンの歌 (新字旧仮名) / 槙村浩(著)
ひとり驕れる城のかき
都喜姫 (新字旧仮名) / 蒲原有明(著)
かきをば前に。
ふく姿すがた高下かうげなくこゝろへだてなくかきにせめぐ同胞はらからはづかしきまでおもへばおもはるゝみづうをきみさまくはなんとせんイヤわれこそは大事だいじなれとたのみにしつたのまれつまつこずゑふぢ花房はなぶさかゝる主從しゆうじうなかまたとりや梨本なしもと何某なにがしといふ富家ふうかむすめ優子いうこばるゝ容貌きりやうよし色白いろじろほそおもてにしてまゆかすみ遠山とほやまがたはなといはゞと比喩たとへ
五月雨 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
すると、かきの外で、しきりに歌をうたっていた少女が、犬にでも噛まれたのか、突然、きゃっと悲鳴をあげて、どこかへ逃げて行った。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
学堂のかきに近づいた頃に、夜廻りの者が松明たいまつを持って、火の用心を呼びながら来たので、これに見付けられては大変だと思って、かれらは俄かに立ちすくんだ。
それからまた一年ばかりののち、煙客翁は潤州へ来たついでに、張氏の家を訪れてみました。するとかきからんだつたや庭に茂った草の色は、以前とさらに変りません。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
また鎮子がそればかりでなく、早期埋葬防止装置の所在までも算哲から明かされているとすれば、当然両者の関係に、主従のかきを越えた異様なものがあるように思われたからである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
または兄弟けいていかきせめぐのその間に、商売の権威に圧しられて国を失うたるものなり。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「夜窓留客一灯幽。酔後陶然解旅愁。談笑何妨渉奇怪。匹如坡老在黄州。」〔夜窓客ヲ留メテ一灯しずカナリ/酔後陶然トシテ旅愁ヲク/談笑何ゾ妨ゲンヤ奇怪ニわたルヲ/たとフレバ坡老ノ黄州ニ在ルガ如シ〕また或時はかき
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
枳殼からたちかき恨みしか
草わかば (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
それは原野の住民が初めに防風林として植えた集団生活のかきであり、それ以外の雑木林とは、おのずから姿がちがっているからである。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暫くすると、狐はおどって役所の建物に入り、さらに脱け出して城のかきに登って、その姿は見えなくなった。
ところが潤州へ来てると、楽みにしていた張氏の家というのは、なるほど構えは広そうですが、いかにも荒れ果てているのです。かきにはつたからんでいるし、庭には草が茂っている。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
陥没と、大湿林の天険がいかなる探検隊もよせつけぬといわれる、この大秘境のかきの端まできたのだ。と思うと、眼下にひろがる大摺鉢地クレーターのなかを、なにか見えはせぬかと瞳を凝らしはじめる。
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
敵の陣営深く、討ち入ったかと思うと、帰途は断たれ、四面は炎のかきになっていた。まんまと、自らすすんで火殺かさつわなに陥ちたのである。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
又ある時、彼は吉莫靴かわぐつをはいて、石瓦の城に駈けあがった。城上のかきには手がかりがないので、かれは足をもって仏殿の柱を踏んで、のきさきに達し、さらにたるきじて百尺の楼閣に至った。
「こやつ。国吉のったこの鉄砲の試しには、ちょうどよい生き物だ。彼方むこうかきのそばへ引き立て、木にくくって立たせておけ」
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頼長めの憎いは重々じゃが、氏の長者ともあるべき我々が兄弟けいていかきにせめぐは頼長のきこえが忌々いまいましい。そちをなぶったも酒席の戯れじゃと思うて堪忍せい。予もしばらくはこらえて、彼が本心を
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
それがしはいち早くかきを跳びこえ、この通り身を乞食にやつしてこれまで逃げのびて来た次第。……語るも無念でたまりません
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
于禁うきんは、背に板を負わせて、かきをきずかせればよく似合うし、夏侯惇は片目だから眼医者の薬籠でも持たせたら、恰好かっこうな薬持ちになれるだろうに。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
王子服達のうしろには、すでに大勢の武士がかきをつくっていた。曹操は冷ややかに笑いながら四人の前へ近づいてきた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
胸のうちでそう詫び入っているかのように、かれは長く拝跪はいきしていたが、やがて御所の新しい門やかきをながめあげて
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
生命いのちのかぎりを啼きすだく虫の秋を、ここにもまた、生命のまたたきを灯に惜しむ、ふたりの熊野の曲が、野水のくように、かきの外まで聞えていた。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
趙雲は、声をあげていた。草やかきの板を投げ入れて、井戸をおおい、やがてよろいの紐をといて、胸当の下に、しっかと、幼君阿斗のからだを抱きこんだ。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そしてことごとく外矢倉そとやぐらや外門に出て、その本丸や主要のかきの陰には、すこぶる士気のない紙旗やのぼりばかり沢山に立っていて、実は人もいない気配であった。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ゆるしなきうちは、草鞋わらじを解いて家に入ることは相成らぬ。用談は中門のかきを隔てて聞くであろうから、奥庭のさかいまで廻れ——とのお言葉でござりまする」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)