ほとけ)” の例文
旧字:
ほとけさまは、おこまりになりました。そしてかんがえぬいたすえに、ついにおじいさんを、つぎのようなものとしてしまわれたのであります。
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
こと大切たいせつ御病人ごびょうにんいのちたすけようとしておいでのとき、ほかの人間にんげんいのちるというのは、ほとけさまのおぼしめしにもかなわないでしょう。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
貴下はあの晩、一度工場の門を出て墓場へゆき、やみまぎれてこのほとけを掘りだし、工場へ引返したのです。そして人肉散華じんにくさんげをやりました。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
個人がこういうことをぜひ行いたいと望み、かみほとけに祈れば、その祈願として合理的ならば必ずそれが早晩そうばん達せられると僕は確信する。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そのなくなった祖母は、いつもほとけの御飯の残りだの、洗いながしのお飯粒まんまつぶを、小窓に載せて、雀を可愛かわいがっていたのである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
おれは神でもなければほとけでもない、やり損いもあろうし、しくじりもあろう。そんなことを怖がって仕事が出来るものか。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
かゝる事はほとけうとき人らにもかたりきかせて教化けうぐゑ便よすがともなすべくおもへども、たしかに見とゞけたりといふ証人しやうにんなければ人々空言そらこととおもふらん
それでほとけと申しますのは、如来——自分がこのままで如来であるということを気づいたときにそれが仏であります。
生活と一枚の宗教 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
六畳の奥の間に、初代はもうほとけになって横わっていた。全身に白い布が覆われ、その前に白布はくふをかけた机を据えて、小さな蝋燭ろうそくと線香が立ててあった。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それから、やおら、ほとけずきな老婆が、野の石仏でも拝むような恰好で、具行の姿の前に、ぺったりと、ひれ伏した。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その次の六畳のなかが被害者……ほとけ惣兵衛の仕事場だったらしく、土間のあががまちの真上の鴨居かもいに引き付けた電燈の白い笠が半分割れたまま残っている。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それでいて夫に満足している細君であった。知らぬがほとけということわざがまさにこの場合の彼女をよく説明していた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(お前さま今夜ほうのきさほとけさんおがみさ行ぐべ。)おみちがぜんの上にまめもちさらきながらった。(うん、うな行っただがら今年ぁいいだなぃがべが。)
十六日 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
「あれは何事言ふぞ」と云へば、声引きつくろひて、「ほとけの御弟子に候へば、仏の撤上物給おろしたべと申すを、此御坊ごばうたちの惜み給ふ」と云ふ。花やかにみやびかなり。
濫僧考補遺 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
田沼先生もかれの顔をみつめて、かるくうなずいたが、その眼は、ほとけの眼のように静かであたたかだった。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
白いめしくのは神の日かほとけの日、節供せっく・祭礼・いわい事のような、折目立おりめだった日に限るのが普通であった。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ほとけに対してとやかくうらみを申し述べるのは私としても、たいへん心苦しい事ですが、忘れも致しません、私が十歳くらいで、いまのあの弟が五歳くらいの頃に
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
私は何もほとけを信じてる訳じゃないが、禅で悟を開くとか、見性成仏けんしょうじょうぶつとかいった趣きが心のうちには有る。
私は懐疑派だ (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
いわば地獄でのほとけである。彼は勇気を振り起こし、火の光の方へ走って行った。近付くままによく見れば、そこは小広い部屋であって、一人の女が火を焚いている。
香いを利くように藤吉が顔を寄せて、矢と傷痕を白眼にらんでいると、佐平次は話を続ける。勘次と彦兵衛、右大臣左大臣のように左右に分れて、静かにほとけを見守っていた。
いよいよごんごろがね出発しゅっぱつした。老人達ろうじんたちは、またほとけ御名みなとなえながら、かねにむかって合掌がっしょうした。
ごんごろ鐘 (新字新仮名) / 新美南吉(著)
二に曰く、あつく三宝を敬へ、三宝はほとけのりほふしなり、則ち四生よつのうまれつひよりところ、万国の極宗きはめのむねなり。いづれの世何の人かみのりを貴ばざる。人はなはしきものすくなし、く教ふるをもて従ひぬ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
一草ごとに三、四寸ばかりの札を立て添へたり。正面に亀野座かめのざといふ札あるはすみれごとき草なり。こはほとけとあるべきを縁喜物えんぎものなれば仏の字を忌みたる植木師のわざなるべし。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
一刀一拝の心もちが入るのは、ほとけを刻む時ばかりでないと云ふ気がした。名人の仕事に思ひ比べれば、我々の書き残した物なぞは、ことごとく焚焼ふんせうしても惜しくはないと云ふ気がした。
雑筆 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ほとけつく真朱まそほらずはみづたまる池田いけだ朝臣あそはなうへ穿れ 〔巻十六・三八四一〕 大神朝臣
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
吒吉尼天は魔だ、ぶつだ、魔でない、ほとけでない。吒吉尼天だ。人心を噉尽かんじんするものだ。心垢しんくを噉尽するものだ。政元はどういう修法をしたか、どういう境地にいたか、更に分らぬ。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
汝、六五家を出でてほとけいんし、六六未来みらい解脱げだつの利慾を願ふ心より、六七人道にんだうをもて因果いんぐわに引き入れ、六八堯舜げうしゆんのをしへを釈門しやくもんこんじてわれに説くやと、御声あららかにらせ給ふ。
昔、ほとけ霊鷲山りょうしうざんにいましき、と言う奴だ。……そら、お袖さんが鞍馬山をやり出した。
好日 (新字新仮名) / 三好十郎(著)
仏涅槃ぶつねはんののちに起った大乗の教えは、ほとけのお許しはなかったが、過現未かげんみを通じて知らぬことのない仏は、そういう教えが出て来るものだと知って懸許けんきょしておいたものだとしてある。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「こりゃ申し遅れました、わしは仙台の兵助と申すやくざのおいぼれでがすよ、それでも人様が、こんな鬼のような野郎を、ほとけとおっしゃって下さいます、お見知り置かれ下さいましよ」
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いかなるおしえしんじても産土うぶすなかみ司配しはいけることにかわりはないが、ただほとけすくいをしんってるものは、その迷夢まよいめるまで、しばらく仏教ぶっきょう僧侶そうりょなどに監督かんとくまかせることもある。
「誰だえ、——くやみに来たのなら、ズイと入りな。線香だけはフンダンに用意してあるよ。もっとも夏に買っておいた蚊やり線香だが、ほとけは文句を言わねえから間に合わねえことは、あるめえ」
父がおしずに申しましたのにはいまさらになってそなたにすむもすまないもないようなものだがたといまくらを並べてねても守るところだけは守っているということをおれかみほとけにかけてちかう
蘆刈 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その間にも、月日はいつか過ぎて、三年ばかり経った頃、加賀国かがのくにの生れだと名乗る一人の年若い白拍子が、彗星すいせいのように現れた。ほとけという変った名前を持つ、まだ十六歳のうら若い乙女おとめであった。
ほとけ作ってたましい入れずになるのも残念だから、引き受けた以上はひと通りの事をしてやりてえと思うのだが……。なにしろその現場を見なけりゃあどうにもならねえ。この分じゃあ明日あしたは天気だろう。
半七捕物帳:50 正雪の絵馬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
各自我がほとけとうとしで、自分のが一番本式だと思い込んでいるから可笑おかしい。先輩から聞いた聊かの知識を根拠として絶対的の断定を下し、相手に選択の自由を許さないところは全く宗教に似ている。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かくなれば金柑の木もほとけなり忝じけなやな実が照りこぼるる
雲母集 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まどひなくて経ずする我と見たまふか下品げぼんほとけ上品じやうぼんほとけ
みだれ髪 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
をろがめばたふとかりけり笠置山くすしき巌はみなほとけにて
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
ほとけさんの前の蝋燭ろふそくに火をけてお出で。』
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
設我得仏 たとわれほとけを得んに
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「へびにしようか。」と、ほとけさまはおおもいになりました。けれど、へびはふゆさむがりですから、おじいさんにはきませんでした。
ものぐさじじいの来世 (新字新仮名) / 小川未明(著)
太子たいしが六さいときでした。はじめて朝鮮ちょうせんくにから、ほとけさまのおきょうをたくさん献上けんじょうしてまいりました。するとある太子たいしは、天子てんしさまのおまえへ出て
夢殿 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
悪魔あくまいまにくほつする、もとむる……ほとけ鬼女きぢよ降伏がうぶくしてさへ、人肉じんにくのかはりにと、柘榴ざくろあたへたとふではいか。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
途端とたん血相けっそうを変えた二人が、両方から一緒に飛びかかって、——が、其の場はほとけ手前てまえもあるからと、居合せた者が仲へ入ってやっと引分けている内に
白蛇の死 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かみ信心しんじんほとけ信心もだが、わしの胸には、どこにいても、母がいるからな。母を思い出すと、悪い事はすまいと思う。善い事はしようと思う。そして良い子を
日本名婦伝:太閤夫人 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しをはりて七兵衛に物などくはせ、さて日もくれければ仏壇ぶつだんの下の戸棚とだなにかくれをらせ、のぞくべき節孔ふしあなもあり、さてほとけのともし火も家のもわざとかすかになし
兄さんは神でもほとけでも何でも自分以外に権威のあるものを建立こんりゅうするのがきらいなのです。(この建立という言葉も兄さんの使ったままを、私が踏襲とうしゅうするのです)
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ただ、それだけの現場げんじょうである。何も無くなった品物も無く、荒らされている形跡も無い。近所の者の話によるとこの爺さんは綽名あだなほとけ惣兵衛と呼ばれていた位の好人物だったそうだ。
山羊髯編輯長 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
にはかにも飢ゑてものほしげなるに、彼此をちこち六六𩛰あさり得ずして狂ひゆくほどに、たちまち文四が釣を垂るるにあふ。其のはなはだかんばし。心又六七がみいましめを守りて思ふ。我はほとけの御弟子なり。