黒子ぼくろ)” の例文
否々、時により、案外な好意をしめし、あのあいそ黒子ぼくろを、十年の知己かの如く、にんまり見せる。——そんな場合の道誉は、憎もうにも憎めなかった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて、この弱々しい月光の下で、二つの小さな頭の影が、一つになって仕舞うと、彼は、葉子の頬についている、小さい愛嬌黒子ぼくろが、自分の頬をも、へこますのを感じた。
夢鬼 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
左の下眼瞼したまぶたに小指ほどの、大きな泣き黒子ぼくろが附いているので、一層その顔は悲しそうに見えた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だから、木村博士を怪しいと考えたのですが、木村博士が盗賊をするのはおかしいと思い、死体を見ると、果たして黒子ほくろ黒子ぼくろだったので、替え玉だなと思ったのです。
紫外線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「おお、入れ黒子ぼくろのしなびたの、この節あどんな寸法、いや、寸伯すんぱく寸伯すばくか、ははは。」
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いくら耳だけ、福耳にしたって、眼尻に泣黒子ぼくろがあっちゃあ駄目じゃないの」
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
世間なみに云えば美人というほどじゃあねえだろう、背も低いし色もあんまり白くはない、ただいつも笑っているような眼と、左の眼の下にある泣き黒子ぼくろがなんともいえず可愛らしいんだ
恋の伝七郎 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
貞は、ちぢれ髪で額のまん中に、地蔵黒子ぼくろがあった。それから幾年か後には、ぼくは貞が云った通りになった。
死体の黒子ほくろ黒子ぼくろであったとすれば、俊夫君の想像が正しいので、看護婦や医員たちを尋問して事情を聞いてみますと、二ヶ月ほど前から先生の様子が以前と少し変わってきたようだったと
紫外線 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
しかしその鳰の唇寄せにも、なお歯がみで耐えていられたのは、これほどな酔いも、まだ、佐々木道誉の笑い黒子ぼくろを忘れるまでには至っていなかったせいである。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文殊菩薩もんじゅぼさつの 入れ黒子ぼくろ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)