馬陸やすで)” の例文
その狭い庭には、馬陸やすでという虫が密生していたし、守宮やもりも葉蔭に這っていた。それから、夜は灯を慕ってやって来る虫で大変だった。
吾亦紅 (新字新仮名) / 原民喜(著)
うちが狭いから上流うわながしへ落ちに掛りますと、上流しが腐って居りますから、ドーンと下流しへ落ちました、丸で馬陸やすでを見たようです。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
百足蟲及び馬陸やすでなどは此の種類の動物だが、日本産のもので發光するのは私は知らない。兎に角この種の動物は皆な陸上に棲むものばかりだ。
光る生物 (旧字旧仮名) / 神田左京(著)
笏はそう言って、足跡に蝟集あつまっているうじうじしている馬陸やすでを指さした。——馬陸は、足跡の輪廓の湿りを縫いながら、蠢乎しゅんことして或る異臭をみながら群れていた。
後の日の童子 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
手に掬つて、流しの明りに見たら、馬陸やすでと云ふ虫であつた。手のひらの水の中に、その褐色の虫がはつきりと、伸びたり縮んだりするのを見る事は、妙に私を寂しくさせた。
槍ヶ岳紀行 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
馬陸やすでごとく環曲まがって転下すともいい、また短き大木ごとき蛇で大砲を放下するようだから、野大砲のおおづつと呼ぶ由を伝え、熊野広見川で実際見た者は、蝌斗かえるこまた河豚ふぐ状に前部肥えた物で、人に逢わばいかり睨み