飯田橋いいだばし)” の例文
武蔵野むさしのの西から流れて来た小川が、そこで滝になって、昔は桜の名所であった江戸川となり、大曲おおまがりを曲って、飯田橋いいだばしの所で外堀に流れ込んでいるのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は末子やお徳を思いとまらせたが、せめ三郎だけをやって、飯田橋いいだばしの停車場まで見送らせることにした。
(新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それとは心づかない君江は広小路ひろこうじの四辻まで歩いて早稲田わせだ行の電車に乗り、江戸川ばたで乗換え、更にまた飯田橋いいだばしで乗換えようとした時は既に赤電車の出た後であった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
十時ごろ帰って来て、飯田橋いいだばしで一度電車を乗り換え、二度目に水道橋で大塚行の電車へ乗って、後の上り口の処へ立っていると、春日町かすがちょうの方から来た電車と壱岐坂いきざか下の手前で擦れ違った。
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
神田かんだの高等商業学校へ行くつもりで、本郷四丁目から乗ったところが、乗り越して九段くだんまで来て、ついでに飯田橋いいだばしまで持ってゆかれて、そこでようやく外濠線そとぼりせんへ乗り換えて、御茶おちゃみずから
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ちょうど牛込見付うしごめみつけ飯田橋いいだばしとのあいだを、北へ登って行くほそい坂道さかみちがそれで、馬はいくらも使える江戸のような土地でも、やはり人の背を借りたほうが、べんりな場合がいくらもあったのである。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
飯田橋いいだばしの乗換えを乗越して新見附しんみつけまで行ってしまった。
田端日記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
誰にも語ることのできない淫恣いんしな生涯の種々様々なる活劇は、丁度現在目の前によこたわっている飯田橋いいだばしから市ヶ谷見附に至る堀端一帯の眺望をいつもその背景にして進展していた。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ところが、牛込の神楽坂かぐらざかに一軒ある煙草店を尋ねる積りで、飯田橋いいだばしの電車停留所から神楽坂下へ向って、あの大通りを歩いている時であった。刑事は、一軒の旅館の前で、フト立止ったのである。
二銭銅貨 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)