顔馴染かおなじ)” の例文
旧字:顏馴染
客もまだないひるまえの横丁よこちょうの一酒館。まいど武松には顔馴染かおなじみの飲み屋らしい。あっさりしたさかな二、三品に、酒だけは、たっぷり取っておいてから
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
篤介は広子にも顔馴染かおなじみのあるある洋画研究所の生徒だった。処女しょじょ時代の彼女は妹と一しょに、この画の具だらけの青年をひそかに「さる」と諢名あだなしていた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そこの主人でもただ長い顔馴染かおなじみというだけで、恐らく私についてはほとんど何事も知らないだろう——そのどこの誰とも知れない一人の男が、十数年この方毎月ふらっとやって来ては
早稲田神楽坂 (新字新仮名) / 加能作次郎(著)
鯁骨こうこつの名の高い彼のくびはいかなる権威にも屈することを知らない。ただし前後にたった一度、ある顔馴染かおなじみのお嬢さんへうっかりお時儀をしてしまったことがある。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
なぜまた毎日汽車に乗ったかと云えば、——そんなことは何でも差支えない。しかし毎日汽車になど乗れば、一ダズンくらいの顔馴染かおなじみはたちまちの内に出来てしまう。
お時儀 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
自分は眼を伏せたまま、給仕の手から伝票を受けとると、黙ってカッフェの入口にある帳場ちょうばの前へ勘定に行った。帳場には自分も顔馴染かおなじみの、髪を綺麗に分けた給仕頭きゅうじがしらが、退屈そうに控えている。
毛利先生 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)