顎骨あごぼね)” の例文
草地の端に若い武士がひとり立っている、顎骨あごぼねのはっきりした、眉の濃い、眼の明るい、意志の強そうな顔である。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
医者のはなしでは顎骨あごぼね腐蝕ふしょくした病毒が脳を冒せば治療の道がないとのことである。重吉が玉子と共に病院を出たのはその夜も十時を過ぎた頃である。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「うん、その紙谷伸子かみたにのぶこだが」とガクリと顎骨あごぼねが鳴り、瞬間新しい気力が生気を吹き込んできた。「それがとりもなおさず、クニットリンゲンの魔法使さ」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
古今東西の如何なる聖賢、英傑といえども、一個のミナト屋のオヤジに出会ったら最後、鼻毛を読まれるか、顎骨あごぼね蹴放けはなされるかしない者は居ないであろう。試みにす。看よ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蒸気むしけの陽気に暑がって阿弥陀あみだかぶりに抜き上げた帽子の高庇たかびさしの下から、青年の丸い広い額が現われ出すと、むす子に似た高い顎骨あごぼねも、やや削げた頬肉ほおにくも、つんもりした細く丸い顎も
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
銀子は咽喉のどに湿布をして、右の顎骨あごぼねあたりの肉が、まだいくらかれているように見えたが、目にもうるみをもっていた。そして「今晩は」ともいわず、ぐったり壁際かべぎわの長椅子にかけた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
恐ろしい緊張を顎骨あごぼねや爪の根にみなぎらせることを忘れぬであろう。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)