音訪おとず)” の例文
堪えかねて光代はひそかに綱雄のもとを音訪おとずれぬ。綱雄は家にあらざりき。光代は時の許す限り待ちに待ちぬ。綱雄はついに帰らざりき。
書記官 (新字新仮名) / 川上眉山(著)
次第を話そうが、三日目のこの朝、再びお悦さんが私たちの旅宿に音訪おとずれた。またどんな事情があって昨日きのうの幹事連が押寄せないとも限らない、早く出よう。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて音訪おとずるる格子戸は、向うへ間をいて、そこへく手前が、下に出窓、二階が開いて、縁が見える。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
聞きすますと、潟の水の、みぎわ蘆間あしまをひたひたと音訪おとずれる気勢けはいもする。……風は死んだのに、遠くなり、近くなり、汽車がこだまするように、ゴーと響くのは海鳴うみなりである。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、その下りる方へ半町ばかりまた足探り試みたのであるが、がけの陰になって、暗さは暗し、路は悪し、は遠し、思切って逆戻りにその饂飩屋を音訪おとずれたのであった。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
呼んだのは、室のひらきの外からだった——すなわち、ねやの戸を音訪おとずれられたのである。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
低い格子戸を音訪おとずれると、見通しの狭い廊下で、本郷の高台の崖下だから薄暗い。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
清葉は格子へ音訪おとずれ兼ねた。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)