隠然いんぜん)” の例文
旧字:隱然
さすが後年こうねんやまに身をかくしても、隠然いんぜん天下におもきをなした大軍師だいぐんし幸村ゆきむら、わかい時から人の知らない心がけがあった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが今では、隠居いんきょして家督を、伜繁助に譲り、末娘が将軍の閨房けいぼうの一隅にちょうを得、世ばなれた身ながら、隠然いんぜんとして権力を、江都に張っていたのであった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
中策は隠然いんぜん自国を富強にしていつにても幕府の倚頼いらいとなる如く心懸こころがくべし〔獄中の意見何んぞ実着なる〕。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
シテ見ると一夫一婦の説も隠然いんぜんの中には随分勢力のあるもので、ついては今の世に多妻の悪弊をのぞいて文明風にするなんと論ずるは野暮やぼだと云うような説があるけれども
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
その力の、いかに隠然いんぜんと、大きなものかは、現在、中央軍の直面している荒木村重むらしげ一族の一伊丹いたみ城すら、いまもって、ちないことを見てもわかる。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北条家の隠然いんぜんたる庇護ひごが、ようやく家康の位置を大ならしめて来たと気づくと、氏政は、さっそく、浜松へたいして、手強てごわ督促使とくそくしをうるさくさし向けた。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いま、日本の北方に隠然いんぜんたる存在を示している一つの力は、越後の上杉景勝だった。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)