隅々くまぐま)” の例文
座敷の隅々くまぐまにも眼に立つようなちりのないのを見とどけて、彼女は更に縁側に出て、三足ばかりの庭下駄にわげたを踏石の上に行儀よく直した。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
胸の隅々くまぐまに、まだその白いはだ消々きえぎえに、うっすらと雪をかついで残りながら、細々と枝を組んで、肋骨あばらぼねが透いて見えた。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
従ってそれは、直観的にはきわめて貧しく、ただ心理描写として、濃淡のこまかな、自然の物象のみによっては現わせない心の隅々くまぐまを、把捉し得るようになるのである。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
低くなつた北岸きたぎしの川原にも、円葉楊まるばやなぎの繁みの其方此方そちこち、青く瞬く星をちりばめた其隅々くまぐまには、やみに仄めく月見草が、しと/\と露を帯びて、一団ひとかたまりづゝ処々に咲き乱れてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
市郎はお杉の手から燈火あかり受取うけとって、左右の隅々くまぐまてらたが、上も下も右も左もただ一面のけわしい岩石で、片隅の低い岩の上には母子おやこ寝道具ねどうぐかと思われる獣の生皮二三枚と
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)