降魔ごうま)” の例文
不動明王の木像が、その右手に持った降魔ごうま利剣りけんで、金貸叶屋かのうや重三郎を突き殺したという、江戸開府以来の大騒ぎがありました。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
オルガンティノは一瞬間、降魔ごうまの十字を切ろうとした。実際その瞬間彼の眼には、この夕闇に咲いた枝垂桜しだれざくらが、それほど無気味ぶきみに見えたのだった。
神神の微笑 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
社会よのなかから姿をくらます者にとって、都合のよい集団でもあったので、腰には、戒刀かいとうとよび、また降魔ごうまのつるぎとよぶ鋭利な一刀を横たえて、何ぞというと
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
役ノ行者は意志の権化、また超人間の象徴として、勇猛降魔ごうま相好そうごうを、備えていなければならなかった。しかるにここにある石像の顔には、そういうものの影さえもない。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
自分の居間に降魔ごうまの壇を築いて、蔭ながら彼女を祈り伏せる決心である。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
魔に対しては、降魔ごうまの剣、邪に対しては破邪のこぶし、まごまごすると、おのれらの素っ首から先に申しうけるぞっ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御代みよしずめ、世を護りたまわんがために、悪をはらい、魔を追うところの降魔ごうまの剣であり——また、人の道をみがき、人の上に立つ者が自らいましめ、自らするために
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
多分、その頃、賊軍と戦って、ここで草の根を喰べながら立てこもっていた御親兵の一人か、或は、降魔ごうまの剣をって兵の中に働いていた僧兵のひとりかも知れません。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いうまでもない。たとえなにほどの敵だろうとも、降魔ごうま禅杖ぜんじょうは、にぶりはしませぬ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「やあやあ、お心づよくあそばせや伊那丸いなまるさま! 加賀見忍剣、ただいまこれへかけつけましたるぞッ。いでこのうえは穴山あなやまぞくのヘロヘロ武者むしゃども、この忍剣の降魔ごうまの禅杖をくらってくたばれ!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)