閻魔堂えんまどう)” の例文
上屋敷に光っている奥方にはばかって、名義は本所閻魔堂えんまどう前の下屋敷召使、十日目には駕籠かごで迎えに来るということまで取決めに来たのです。
場所は蔵前の閻魔堂えんまどうの境内。九尺二間の借家が出張所で、今日は、月の三の日にあたるので、もう朝からだいぶな客があった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木魚を置いたわきに、三宝が据って、上に、ここがもし閻魔堂えんまどうだと、女人を解いた生血と膩肉あぶらみまがうであろう、生々なまなまと、滑かな、紅白の巻いた絹。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以前小さな閻魔堂えんまどうがあったが、乞食の焚火から焼けてしまい、今は唯石刻の奪衣婆ばかり片膝立てゝ凄い顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
よもやと思っていた係与力かかりよりきの耳へ、谷中瑞雲寺やなかずいうんじ閻魔堂えんまどうのそばで、つい、たった今、また娘がひとりられたという急な報せ。ちょうど、閻魔の祭日の当日なので。
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
あんなこわい顔をした不動様でも、姥神うばがみと一しょに住めばつぐらの子の保護者でありました。お盆になると少年が閻魔堂えんまどうに詣るのも、やはりあの変な婆さんがいるからでした。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
墓は深川亀住町かめずみちょう閻魔堂えんまどう地中じちゅうの不動院にのこって、戒名を參清自空信士さんせいじくうしんしと申します。
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼が隣の墓地ぼちにはもと一寸した閻魔堂えんまどうがあったが、彼が引越して来る少し前に乞食の焚火たきびから焼けて了うて、木の閻魔様ははいになり、石の奪衣婆だつえばばかり焼け出されて
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
今年、四月八日、灌仏会かんぶつえに、お向うの遠藤さんと、家内と一所に、麹町こうじまち六丁目、擬宝珠ぎぼうし屋根に桃の影さす、真宝寺の花御堂はなみどうもうでた。寺内に閻魔堂えんまどうがある。遠藤さんが扉を覗いて、袖で拝んで
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)