野苺のいちご)” の例文
ほんとに、彼奴ときたら、どんなつまらないあまでも、見のがしっこないんだからなあ。彼奴はそれを、⦅野苺のいちごを摘む⦆のだって言ってやがるのだぜ。
そのみちにずっと笹縁ささべりをつけている野苺のいちごにも、ちょっと人目につかないような花が一ぱい咲いていて、それが或る素晴すばらしいもののほんの小さな前奏曲プレリュウドだと言ったように、私を迎えた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ニュウグランド・ホテルの前を通って、陽のまばゆい草原の道を真直ぐに進みながら、小さい兄妹はえんじ色にうれた野苺のいちごを見つけて、わざと草深い中を歩きながら両手にあまるほど苺を摘んだ。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
それから野苺のいちごは十四ですが私たちが食べるような苺はその四倍の五十六、こんな風に、つまり染色体の数が多いと同じ苺なら苺でも優れているんです、例えば育ちが良いとか、寒暑に耐えるとか……
火星の魔術師 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
私は柏木のことばかり思続けました。流行謡はやりうたを唄って木綿機もめんばたを織っている時、旅商人たびあきんどおさを賞めて通ったことを憶出おもいだしました。岡の畠へ通う道々妹と一緒に摘んだ野苺のいちごの黄な実を憶出しました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
山家そだちの野苺のいちご
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)