醜貌しゅうぼう)” の例文
髪の毛が余り縮れてもおらず、鼻の頭がすっかりつぶれてもおらぬので、此の男の醜貌しゅうぼうは衆人の顰笑ひんしょうまととなっていた。
南島譚:01 幸福 (新字新仮名) / 中島敦(著)
私が若し、もっと豊な家に生れていましたなら、金銭の力によって、色々の遊戯にけり、醜貌しゅうぼうのやるせなさを、まぎらすことが出来たでもありましょう。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
無才、醜貌しゅうぼうの確然たる自覚こそ、むっと図太い男を創る。たまもの也。(家兄ひとり、面会、対談一時間。)
HUMAN LOST (新字新仮名) / 太宰治(著)
醜貌しゅうぼうを見ることが出来るようにな。さてその次はなま爪だ。手の爪から足の爪、一枚一枚ひっぺがす。血がしたたって、床を染め、その中でお前はうめくだろう。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
与えたと云うのは我が子いとしさに取り上気のぼせた親心にしても余り復讐ふくしゅう執拗しつように過ぎる第一相手は盲人であるから美貌を醜貌しゅうぼうに変ぜしめても当人にはそれほど打撃にはならないもし春琴のみを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
愛嬌あいきょうもそっけもない、ただずんぐり大きい醜貌しゅうぼうの三十男にすぎなくなった。この男を神は、世の嘲笑ちょうしょうと指弾と軽蔑けいべつと警戒と非難と蹂躙じゅうりんと黙殺の炎の中に投げ込んだ。
答案落第 (新字新仮名) / 太宰治(著)
事態は、緊迫しています。もはや、かの肥満、醜貌しゅうぼうの大バルザックになるより他は無い。ほんとうは、若いままで死にたいのだが、ああ、死にたいのだが、ままにならない。
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)