都人士とじんし)” の例文
されども之を夫の鮒鱮ふなたなごを釣る織細の釣具に比する時は、都人士とじんしの夢想にも及ばざる粗大頑強のものたるは言うまでもなし。
大利根の大物釣 (新字新仮名) / 石井研堂(著)
それがやがて、都人士とじんしの宴席に興じられ、ついには近ごろの如く、本座、新座などの職業役者をも生むような流行にまでなって来たものだとか。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かくの如く江戸名所を課題とせる狂歌の流行は江戸名所の風景に対する都人士とじんしの愛好心を増進せしむると共に
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この時余が驚いた事は、漱石は、我々が平生へいぜい喰ふ所の米はこの苗の実である事を知らなかつたといふ事である。都人士とじんし菽麦しゅくばくを弁ぜざる事は往々この類である。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
あるいは浜づたいに往通ゆきかよ行商あきんどを見るばかり、都人士とじんしらしい者の姿を見るのはまれなのである。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
前にもいったが、『八犬伝』の中心舞台は安房よりも江戸であって、事件が多くは江戸あるいは江戸人に親しみのある近国で発展したのが少なくも中央都人士とじんしの興味を湧かさした原因の一つである。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
と町生れの坂本君は常に都人士とじんしをもって自任している。
村の成功者 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
都人士とじんしもし此事このことうたがはば、たゞちにきたれ。
蛇くひ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
広重ひろしげの絵本『江戸土産えどみやげ』によって、江戸の都人士とじんしあまねく名高い松として眺め賞したるものを挙ぐれば小名木川おなぎがわの五本松、八景坂はっけいざか鎧掛松よろいかけまつ麻布あざぶの一本松、寺島村蓮華寺てらじまむられんげじ末広松すえひろまつ青山竜巌寺あおやまりゅうがんじ笠松かさまつ
そして都人士とじんしの風潮は、いよいよ虚無的に