遠火とおび)” の例文
これらはいずれも合戦におびえた伊豆、駿河の人民百姓が野に隠れ、船で逃げ、炊事した火であったが、夜対岸から見れば陣営の遠火とおびとも見える。
で私の遊び合手あいては、あたしをも釜前かままえにつれていった。冬などは、わらの上にすわって、遠火とおびに暖められていると非常に御機嫌になって、芋屋の子になってしまいたかった。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
古い土佐のことわざに、遠火とおびに物をあぶって火のとどかないことを、手結山ていやまの火と云ったものだ。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
遠火とおびで魚をあぶるように、ゆるゆると攻め殺すがよいでしょう。短兵急に押し詰めると、いわゆる破れかぶれとなって、思慮にとぼしい呂布のこと、どんな無謀をやるかもしれません」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
母が大阪へ売られてから間もなく寄越よこされた文だとすれば、もう三四十年は立っているはずのその紙は、こんがりと遠火とおびにあてたような色に変っていたが、紙質は今のものよりもきめが緻密ちみつ
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「頼まれ物は大事にしなくちゃあいけねえ。おやおや、グショグショだ、封じ目もなにも離れちゃった、このままでは手がつけられねえ。おっと待ったり、いいことがある、この笠の上へ拡げて、遠火とおびであぶるとやらかせ」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)