道心どうしん)” の例文
あせればあせるほど、彼の道心どうしんをとろかすような強い強い業火ごうかは胸いっぱいに燃え拡がって、玉藻のすがたは阿闍梨の眼先きを離れなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いわゆる神釈じんしゃくの句の中でも、人が尊重していた遁世とんせいの味、たとえば「道心どうしんの起りは花のつぼむ時」といったような、髪をる前後の複雑した感覚
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ほんとの、よろこび、安住の境界きょうがい、それはどこにもない。真実の光に浴せる人間らしい“道心どうしん”こそ、いまは欲しい。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕が社長の道心どうしんを話したら、広瀬さんは宗教家丈けに、それは結構なことだと言った。社長の再婚反対論には一切触れない。僕はこれでも考えている。
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
学理あるいは歴史の研究についてはいうまでもない。昔のシナの学者も道心どうしん人心じんしんと区別して説いたそうである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ああ、師父しふか。師父はな、これより北のかた、二千八百里、この流沙河りゅうさが赤水せきすい墨水ぼくすいと落合うあたりに、いおりを結んでおられる。お前さんの道心どうしんさえ堅固なら、ずいぶんと、教訓おしえも垂れてくだされよう。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
この世は夢のごとくにそうろう 尊氏に 道心どうしん ばせたまい候て 後生ごしょうたすけさせたばせたまそうろうべく候
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)