通路とおり)” の例文
通路とおりの右になった方は、真直まっすぐになって見渡されたが、左になった方はすぐ折れ曲がっていた。寺の本門ほんもんは左の方にあった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
今しもお宮は露路口の石段を上って表の通路とおりに出で立ちながら腰帯のゆるみをきゅっと引き締めながら
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
一寸ちょっとその家の模様をはなしてみると、通路とおりから、五六階の石段をあがると、昔の冠木門かぶきもん風な表門で、それから右の方の玄関まで行く間が、花崗石みかげいしの敷石つたい、その間の、つまり表から見ると
怪物屋敷 (新字新仮名) / 柳川春葉(著)
何時いつの間にか彼は今までよりは広い明るい通路とおりへ出ていた。と、彼の気もちは軽くなって来た。彼は女が己の帰りを待ちかねているだろうと思いだした。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
鰻屋のかしくは、そこの大通路とおりの裏になった街にあった。彼の立っている側には交番があった。彼は交番の前から十字街をむこうへ往って、すぐ左にある狭い街へ折れて往った。
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「二人がいっしょに出ると感ぐられるから、あなたは通路とおりのほうから一足さきへ出て、むこうへ廻って、ろじの口で待っててください、私はあなたが廻った時分、巷から出て往くわ」
文妖伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
坂の上の古い通路とおり二条ふたすじになっていて、むこう側には杉の生垣いけがきでとりわした寺の墓地があった。彼は右の方を見たり、左の方を見たりした。淋しい通路とおりには歩いている人もなかった。
赤い花 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
みちはまた狭い暗い通路とおりへ曲った。讓は早く帰って下宿の二階でじぶんの帰りを待ちかねている女に安心さしてやりたいと思ったので、つまさきさがりになった傾斜のある路をとっとと歩きだした。
蟇の血 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)